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神田敬太(仮名、裁判当時65歳)は事件現場となったコンビニに入店するとすぐに従業員に怒鳴りつけはじめました。その時店にいた二人の従業員はいずれも外国人の若い女性でした。
「1時間前に買ったプリペイドケータイが使えないんだけど!」
店員の一人がレジの前で怒鳴る彼を端末まで案内し、端末に付いている電話でサポートセンターに電話して返金手続きをするよう伝えると、彼はさらに激昂しました。
「ふざけんな! 使えないから早く金返せよ! 3000円返せ!」
そう言われても返金するためには契約の取消し手続きをしなくてはなりません。店員は何度も伝えましたが彼は全く聞く耳を持とうとせず、相変わらず怒鳴り続けました。
そのうち、業を煮やしたのか、
「店長呼べ! 早く呼べ! 早く呼べ!」
と騒ぎはじめました。店員はその時店に不在だった店長に電話をしましたが、電話に出ません。それを見ると彼は手に持っていたプリペイド式携帯電話をレジの方向に投げつけ、
「どうすんだよ! ふざけんな! ぶっとばすぞこのヤロウ!」
と叫んで、目の前の女性従業員の頬を平手で叩き肩の辺りを突き飛ばしました。
恐怖にかられた被害者はレジに向かって
「3000円返してあげて!」
と別の店員に声をかけ、その場はお金を払って彼をなだめ店から帰しました。
犯行状況はすべて克明に防犯カメラに映っていました。店側はすぐに110番通報し、彼は恐喝の容疑で逮捕されました。
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彼の裁判で情状証人として出廷したのは社会福祉士の女性でした。彼女は、
「被告人がこのような事件を起こした原因は覚醒剤後遺症だと考えています」
と供述していました。
彼には過去に4回の逮捕歴があります。いずれも覚醒剤取締法違反です。彼女の話では、
「覚醒剤後遺症は薬物の影響で脳が萎縮することが原因で起こります。人から見ればわけのわからない行動を取ってしまう人もいますし、統合失調症や認知症などと区別のつかない行動を取ってしまいます」
という症状だそうです。
彼が覚醒剤後遺症であるかどうか、まだ正式に医師からの診断は裁判当時には降りていませんでしたが、彼女の見立てではまず間違いないとのことでした。
彼が最後に覚醒剤を使用したのは彼の話では事件の3年ほど前だそうです。その点については、
「だいたいの人は嘘をつきます。信用していません。覚醒剤をやめた人でも『少しくらいなら大丈夫』と再度使用してしまうのが依存症の弱い部分です。少なくとも、若い頃からかなりやっていたと思っています。それに、一度やったら同じですから」
と、少し突き放しているようにも取れる見方をしていました。
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「面談した感じでは、はじめは猜疑心の塊という印象で、人と話すことがかなり苦手な人だと思いました。それでもきちんと話をすれば耳を傾けてくれるしわかってくれる人です。親族の方や被告の友人に話を聞くと、いつもはおとなしい人だそうです」
いつもはおとなしいという彼が突然店で暴れたのはやはり病気が大きな要因になっているように思われます。彼本人は事件当時のことは「ほとんど覚えていない」ということでした。
逮捕されるまで、人と話すことも人間関係をつくることも苦手な彼は行政や医療の支援を受けることもなく、同じような境遇に置かれている数少ない友人たちとその日その日を気ままに生きてきました。
そのような彼の生活態度を社会福祉士は、
「生きにくさを抱えて生きている人のなかには、その『生きにくさ』に気付くことさえできない人もいます」
と説明していました。今後は行政の支援と医療につなげることで、再犯を防止していく、ということです。
彼はいわゆる「老害」と呼ばれる人だと思います。
ただ、彼の抱えている事情や「生きにくさ」に目を向けもせず彼を老害呼ばわりして見捨てるような社会は、誰にとっても「生きにくさ」を抱えて生きざるを得ない世の中なのではないかとも思えます。(取材・文◎鈴木孔明)