前回はあえて突き放すような形で『TVタックル』(テレビ朝日系列)のアニメ規制回について書かせていただいたが、今回は少し趣向を変えて、あの番組から得られた事について述べてみたい。
まずはじめに、かの番組に出演した規制賛成派の意見については、いまさらここで述べるまでもないほど稚拙かつ中身の無い「オタクは気持ち悪い」というだけのものだったと言うしかない。
平林都氏や阿川佐和子氏らの他者を見下した無礼な言動(=オタク蔑視)は、差別と騒がれておかしくないほど酷いものであったし、VTRに登場した学者の「アニメの影響で真似する可能性が~」に至っては「ではドラマ・映画・小説・バラエティ番組等の影響で真似する可能性はないのか?」の一言で片付けられる。
ここから解るのは、規制賛成派の動機は単なる個々の感情でしかなく、自分に縁遠いもの、自分の価値観にそぐわないものを弾圧したい、世の中から消し去りたいという程度でしかないということ。またそれを実現するために、根拠として議論の席で事あるごとに論破されて来た「効果が見込めないはずの武器」を未だに振りかざしており、それでもなお規制強化へ向けて着実に歩を進めている。
この「オタクは気持ち悪いから」という差別的な感情が、これほど強烈な武器になり得るという点には注視しておくべきだろう。世間のオタクへの嫌悪感は、理屈を吹き飛ばしてなお余りある力を持っているのだ。
また、今回の放送で最も危険と看做さねばならないのは、規制を推し進めようとしている土屋議員の無知さと、自分に都合の良い情報・解釈以外を認めない姿勢にある。彼は法をいじれる立場にあるにもかかわらず、あの程度の知識(すでに統計データで否定済み)と根拠(個人の偏見や嫌悪感)しか持たないのだ。
今回迫害されようとしているのはアニメやマンガだが、これを他のジャンルに置き換えてみたら、どれほどマズイ状況なのか理解出来るだろう。政治家の誰かが「これ嫌い」と思ったら、その感情だけを根拠に法律を作られ、迫害を受ける可能性があると白日の下に晒されたのだ。これはその時々の権力者のセンスに合わせて、表現作品を作っていかねばならないという話である。オタクコンテンツどうこうよりも、この点を世間に問題視させねばならない。まるで中世の王侯貴族と、彼らの庇護によって食い繋いでいた芸術家の関係性を、今の時代に復活させようとしているかのようである。
また犯罪との因果関係についてだが、「子供を守るためにアニメ規制を!」とはよく聞く話だし、また「欧米ではこのようなロリコン描写は許されない!」というのも吐き気がするほど何度も聞かされた。だがしかし、日本のようなHENTAIロリコンコンテンツがなく、バイオレンスをはじめとする様々な表現に厳しい規制が掛かっているはずのアメリカ等では、日本とは比較にならないほど多くの性犯罪が巻き起こっている。その中には子供が誘拐された、犯された、殺されたといった痛ましい事件も多々あり、「オタク的なコンテンツが溢れているから子供が犠牲になる」というロジックは全く通用しない。
次にゾーニングや自主規制等について言えば、アニメ・ゲーム・マンガ・映像作品といった日本の様々なコンテンツには厳しくレイティングが施されており、基本的に子供はエロ作品を見れないようになっている。また作品の中身を見れないだけではなく、そもそも売り場自体が隔離されており、アダルトコンテンツを求める客は「自分の判断で境界線を越えて売り場に立ち入る」必要がある。これらをもってしてもなお大勢の子供がエロコンテンツによって悪影響を及ぼされるというならば、それは子供がルールを無視して境界線を越えたからであり、まずはそこを叱らねばならないはずだ。
ところが、規制賛成派はこうした規制済み・隔離済みであるという事実から目をそらし、今なお無秩序に子供に有害なエロ作品があちこちに置いてあるかのようなデマを飛ばす。レイティングや売り場については、すでに厳しすぎるほどの規制が終わっているのに、これ以上何をどうしたいのだろうか?
実は規制賛成派からは、この辺りの具体的な「ここをこう改善したい」という案すら出ていないのが実情なのだ。彼らはひたすらに「子供が~! 子供に~! 子供を~!」とヒステリックに叫ぶだけで、実際にどこがどうおかしいのか、どこに不備があるのかといった指摘をして来ない。それをすっ飛ばして乱暴に「だからジャンルごと消し去るべきだ!」と結んでしまう。こんなあまりに暴力的な手法に、多数と呼んでいいほどの支持が集まっているのが現実である。
今回の『TVタックル』は、内容的には全く見るものはなかったが、改めてこのような図式を認識させてくれたという点だけは評価に値するだろう。現在、規制反対派は理屈と統計データといった正攻法で立ち向かおうとしているが、残念ながら規制賛成派はそうした「真っ当な土俵」には上がって来ない。仮にまともな議論の場で何かしらやり取りをしたとしても、またその場で規制反対派が圧勝したとしても、TVタックルがそうだったように「でもオタクってこんなに気持ち悪いんですよ~」というアピール一発で取り返せてしまう。
表現規制反対派は、長きにわたって「規制すべきでない理由」をいくつも用意し、規制推進派や世間の偏見と戦って来た。ところが、そのような長い歴史を経てもなお、世間は「オタクって気持ち悪ぅ~い!」という域から出ていなかったのである。これこそが、今回のTVタックルが伝えてくれた最大の情報だと言えるだろう。
これに対抗するには、ロジックを強固にする、理解のある政治家を味方に付けるといった努力も必要だろうが、何よりも「オタクに対する偏見を和らげていく」という気の長い作業が必須となろう。例えば、エロ絵が描いてあるような袋をぶら下げて街を歩かないとか、世間から気色悪がられるようなアニメ絵のTシャツを表で着ないとか、ほんの少しの気遣いで出来るところから始めるべきである。バカバカしい話になってしまったが、本当にこれが必要なのだ。
逆に絶対にやってはいけないのが、自分が気に入らない相手への迷惑行為である。今回の『TVタックル』出演者にネットで殺害予告をした人間がいたが、そんな事をすれば逆効果だと思い至らないのだろうか?
規制賛成派からすれば、殺害予告や迷惑行為は、規制を強化しなければならない大きな理由に変換されてしまう。こうした社会性の欠如も、オタクが世間から迫害を受ける理由である。赤ん坊がおっぱい欲しさに泣きわめいているような反応をいくら返したところで、自分の首を締める結果にしかならない。もっと別のオトナとしての戦い方を身に付けねば、アニメ・マンガ・ゲームといった「オタクが好きな物とされるコンテンツ」は迫害を受け続けるだろう。
こう言うと「個々の服装やルックスなんか関係ないだろう!」と非難の声も挙がるだろうが、残念ながらそうした声は世間には届かない。こうした「多数派の感情」との戦いを続けるしかない難しさが、私がこの問題を「差別問題」だとする最大の理由なのである。
そろそろテロも辞さないコワモテを揃えて「オタク解放同盟(略してオタ同)」を設立する必要があるのかもしれない。(これは冗談ですごめんなさい)
Written by 荒井禎雄
Photo by djandyw.com
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