イギリスでの児童ポルノ漫画裁判、他人事ではない判決に

2014年10月27日 イギリス 児童ポルノ 裁判

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  2012年、99枚の児童ポルノ画像を保存していたとして逮捕されていた39歳の男性が、懲役9ヶ月執行猶予2年の有罪判決を受けた。保存されていた画像はすべて漫画がアニメのもの。裁判官は「押収された画像は明らかに人間の子どもを想起させるもの。実在の人物が画像に関与していないことは事実であるが、児童の性行為を描写した画像は大きな危険性を秘めている」とした。GIGAZINEが「Gaxette LIve」のニュース翻訳として伝えた。これは他人事ではない。

 イギリスでは1978年の「児童保護法」第1条で「児童のいかがわしい写真」を、

1)18歳未満またはそのように見える者を描写する、

2)いかがわしい、

3)写真または写真のように見える画像を要件として、撮影、撮影の許可又は製造を禁止している。

 また、1988年の「刑事司法」第160条で意図的な所持を禁止した。児童保護法による「いかがわしい」の判断は、「社会で広く認められた礼節の基準」となっている。その際、以下のような基準となっている。

1)写真等が「いかがわしい」ものか否かの判断は、その写真のみて観察することによってのみ行われるべき

2)たとえ性行為を伴わない描写でも、「いかがわしい」とされることがある。例えば、性器等が露出していないものの、上半身は大き目のブラウスと一連のビーズを、下半身は下着のみを着けた、胸を誇示するような14歳の女児の写真、また、裸体主義者のみが集まる水泳プールで撮影された、性欲を喚起するようなポーズを取っていない7歳の男児の裸体の写真が、いずれも「いかがわしい」とされている

3)「いかがわしい」に該当しない写真等を編集したものが、「いかがわしい」とされることがある。テレビで放映されたドキュメンタリー番組から男児の性器に治療を行なうシーンを中心に編集する等した映像が「いかがわしい」に該当するとされた。

 また、2009年検死官及び刑事司法改革法でも「子どもの画像」が禁止されているが、その中に「ポルノ」が含まれている。その定義は、「過度に不快で、嫌悪を催し、又はその他猥褻な性格の画像」あるいは、「性的興奮のためだけに、又は専らそのために制作されたと合理的に推定されるべき性質」などがある。

 イギリスでは「児童」の定義が「16歳未満」だったが、2003年、「18歳未満」に引き上げられた。また、「18歳未満のように見える人物」についての規制対象となった。さらに2009年法で、所有禁止の対象が「画像」を含むことになった。

 報道によると、有罪判決を受けた男は2008年にもゲーム「トゥームレイダー」に似せたCGの児童ポルノを所持していたとして有罪判決を受けており、性犯罪者治療プログラムに参加するように命じられていた。しかし、この時は法改正前だったこともあり、児童ポルノ所持は罪に問われなかった。

 今回の有罪判決で、イギリスでは、絵に描いた児童ポルノの所持の禁止が処罰された初めてのケースとなった。

 日本でも、14年6月に、児童ポルノ処罰法が改正された。争点の一つだった「漫画やアニメも規制対象に含めるかどうか」については、今回は外された。一方で、「児童ポルノの単純所持の禁止」が盛り込まれた。合法だった時代の児童ポルノの所持も処罰対象になる。過去に出版されたアイドルの写真集では、現在の基準では「児童ポルノ」と認定される可能性のものもあるが、それを所持していても処罰対象になる。まさに他人事ではない。

 今回の改正では漫画やアニメは処罰対象ではないが、表現規制の議論が終わったわけではない。民主党政権時代に作られた「子ども・若者育成支援推進法」があるが、安倍政権はこの法律を全面改正しようとし、法律名も変えて、「青少年健全育成基本法」( http://houseikyoku.sangiin.go.jp/sanhouichiran/sanhoudata/186/186-016.pdf )にしようとしている。前回の国会では改正案が提出されている。

 従来の「子ども・若者育成支援推進法」が憲法や子どもの権利条約の理念をベースにしているが、改正案の「青少年健全育成基本法」は、健全育成を理念にするという全く別のベクトルのものにしようとしている。にもかかわらず、改正案という形で出されたことで、ほとんど注目を浴びていない。

「青少年健全育成条例」などは都道府県ごとに定められており、自民党は何度か全国一律の基準にする「青少年健全育成基本法」を作ろうとした経緯がある。もしこれが制定されれば、国として一律の基準をつくることが可能だ。各都道府県条例の解釈も変化する可能性も秘めている。

 たとえば、出版物の「有害図書」あるいは「不健全図書」の指定は都道府県ごとに違っているが、2010年12月の改正東京都青少年健全育成条例の議論のときは、都の問題でありながら、全国の注目を浴びた。性描写に関する表現の新基準があったからだ。

 都条例での新基準は以下の通りだ。

 漫画、アニメーションその他の画像(実写を除く。)で、刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為又は婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為を、不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を妨げ、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの  漫画がアニメの世界でも、現実の性道徳の範囲でなければ、「不健全図書」として指定されることになった。14年5月には、「TECHGIAN STYLE 妹ぱらだいす!2」(KADOKAWA)が新基準での初適用となった。

 同基本法への改正案では、「言論、出版その他の表現の自由を妨げることがないうように配慮しなければならない」との文言が入っている。この条項は、議論が沸き起こることを最初から念頭に置いたものだろう。これまでの条例議論でもこの問題がついて回った。しかし、流通や販売の規制となれば、実際には出版規制と同義だ。10年の都条例改正問題のときと同じように、再燃となるだろうか。

Written by 渋井哲也

Photo by Johnny Martin ecdl

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