CDからの脱却 アイドルビジネスに変革をもたらす
CDが売れない昨今、チャートの上位を占めるのは、握手券などの特典をつけたアイドルの作品ばかり。そして、特典目当てで買われたCDは山奥に不法投棄される始末。多くのCDが再生されることなく捨てられるという、"音楽ビジネス"とは程遠い実態がそこにある。
しかし、そんな状況から脱却すべく動き出したのが、モーニング娘。'17やアンジュルムなどが所属するハロー!プロジェクトだ。ここ数年、ハロプロではCDをリリースするたびに、個別握手会やチェキ会といった特典イベントを開催してきた。しかし、2017年後半から、CDという形ではなく『デジタル・シングル』という形でのリリースが増え、その結果、握手会などのイベントが減少傾向にある。さらにアンジュルムは新曲を"映像作品"という形でリリースするなど、新たな形での作品発表にも取り組んでいる。
特典会を開催すればCDの売り上げが増えるわけだが、特典会を開くのもタダではない。広い会場を押さえなければいけないし、警備員も雇わなければいけない。CDの売上が増えたとしても、特典会をやればその分、出費も多くなるのだ。
そして、特典会にスケジュールを取られて、メンバーたちのレッスンの時間は削られるし、休養も取れなくなる。握手をすることが主な仕事であればそれでもいいが、歌って踊ることが仕事であるアイドルにしてみれば、特典会はあまりにも負担が大きい。その点で、CDからデジタル配信に移行しつつあるハロプロの選択は、パフォーマンスを重要視するという意味で至極当然なことなのだろう。
また、映像作品というかたちでリリースすることは、"シングルランキングの呪縛"から逃れるという意味で同様の流れといえるはずだ。ランキングのために無理して売り上げを伸ばす必要もなく、特典会も減らし、その時間を他の仕事に充てられる。
アイドルがアイドルとして輝き続けるために
特典会に重きを置くビジネスから、パフォーマンスに重きを置くビジネスへと軌道修正を図っているのがハロプロだとしたら、また別の形で「CDを売る」というビジネスモデルに問題提起をしたのが、BiSHだ。
BiSHは11月4日、アルバム『THE GUERRiLLA BiSH』を11月29日の発売日に先駆けて全国のタワーレコードで無告知のままゲリラ的に299円で販売した。ブックレットなどはなく、簡素なパッケージではあったが、見事に完売。11月6日には1日限定で同アルバムを300円でiTunes Storeにて先行配信。さらにBiSHのマネージメントを行うプロダクション・WACK所属アーティストによるオムニバスアルバム『WACK & SCRAMBLES WORKS』もまた、11月27日の1日限定で300円にて配信した。
格安で先行販売したら、正規の価格でCDが売れなくなるのではないかという考えもあるだろうが、BiSHのゲリラ販売は大きな話題となり、その宣伝効果は抜群だったはず。おそらく「300円なら買ってみよう」と購入した新しいファンも多かったであろうし、そういったファンが、今後作品を購入したり、ライブに足を運んだりすれば、まさに大成功となる。
WACKのゲリラ販売は、CDを売るための仕掛けではなく、"CDを売ること自体が仕掛けとなった"といえるだろう。"CDを売るためにプロモーションをする"という時代が終わったことを、CDそのものをプロモーションツールとして利用することで、逆説的に知らせしめたのだ。
アイドル業界はいよいよ次の展開へと舵を切った
YouTubeや定額制聴き放題サービスで音楽を楽しむことが当たり前になっている今、"音楽の魅力を広めるためにCDを売る"ということのハードルはかなり高くなっている。それならば、CDを売るという目的を捨て、ライブパフォーマンス重視のビジネスに移行するも、生き残る方策となるだろう。
特典会こそがすべてであると開き直るならそれもいいだろうが、音楽ビジネスに誠実でありたいのであれば、いつまでもそんなことは続けていられない。「音楽を売る」という本来のビジネスに立ち返るタイミングが訪れているのだ。
取材・文◎大塚ナギサ