Photo by 美味しんぼ 110 (ビッグコミックス)
菅官房長官、橋下大阪市長、福島県、双葉町など政府要人から地方行政まで巻き込んでしまった人気長編グルメ漫画『美味しんぼ』の鼻血描写騒動。当サイトでも何度が報道しているので流れはお分かりだろう。
『美味しんぼ』を掲載している小学館発行「ビッグコミックスピリッツ」編集部(以下スピリッツ)や原作者の雁屋哲氏が言うところの「綿密な取材」に基づいた作品が、このような大きな騒動になるとは想定外だったろう。
雁屋氏はブログで「全責任は私にある」と言っているが、連絡先が小学館になっているので、抗議は小学館に向けられるしかない。そして、一般企業メーカーと違ってクレーム処理担当は出版社にはないため(法務部があるがそれは別)、抗議はダイレクトにスピリッツ編集部に届くことになる。対応している編集者の疲労も蓄積しているとも聞く。しかし、こういった状況になるのは「予め予測されていた」という関係者の声も聞こえてくる。
『美味しんぼ』制作スタッフの力関係に注目したい。『美味しんぼ』連載当時は、花咲氏はデビュー間もない若手。雁屋氏は既に『野望の王国』『男組』などで知られており、新人同然の花咲氏にとって雁屋氏の原作を絶対的存在であった。
今に至っては、雁屋氏の代表作と言えば『男組』『野望の王国』ではなく『美味しんぼ』になっている。累計一億数千万部とも言われる発行部数の影響力は大きい。雁屋氏は、日本の漫画業界でも上位1%に含まれる大成功者だと言える。漫画にとどまらず、アニメ、映画へと派生した『美味しんぼ』は、雁屋氏の代表作と同時にスピリッツの代表作にもなっていた。
スピリッツから生まれた名作はそれこそ数えきれない。『めぞん一刻』(高橋留美子)、『東京大学物語』(江川達也)、『あすなろ白書』(柴門ふみ)、『軽井沢シンドローム』(たがみよしひさ)、『月下の棋士』(能條純一)、『YAWARA!』(浦沢直樹)......。余りに多いのでこのあたりで割愛させて頂くが、そのなかでも『美味しんぼ』は群を抜いている。
スピリッツ黎明期から輩出された作品群のなかで、今もなお連載が続いているのは『美味しんぼ』だけなのだ。この作品がスピリッツ編集部の中でどのような存在になっているのかは推して知るべしである。「俺がスピリッツを大きくした」という自負が雁屋氏に全くないと言ったらウソになるだろう。
「『美味しんぼ』には様々な利権が絡んでいて、コミック初版は最低15万部以上刷らないと黒字にならないという話もある。最近は『美味しんぼ』の売り上げも低迷していて、コミックスを出す度に大幅な赤字がスピリッツ編集部に累積していたという話もある。それでも編集部の中では、誰も雁屋さんに文句を言えない状態なんです」(前出・漫画編集者)
スピリッツの部数低迷が囁かれていたなかで、今週号は少なくとも「かなり売れた」と言われており、来週号も多くの販売部数が見込めるだろう。そういった意味では「炎上商法」が成功したのかも知れないが来週以降どうなるのか。
現内閣、地方行政からの抗議まで噴出している。いくら有名作品とはいえ、漫画の表現に対して政治家が口を挟むことには違和感を感じるが、テレビ・ラジオでは特集まで組まれるほどの騒動になっている。とはいえ、雁屋氏はその性格から「絶対自説を曲げないだろう」(前出・漫画編集者)と言われている。
すでにネットでは不買運動まで囁かれているが、果たしてスピリッツ編集部が、アンタッチャブルな存在となっている雁屋氏の首に鈴をつけるようなことはあり得るのだろうか。両者の関係も気になるところである。
Written by 原田信二
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