「残業代ゼロ 一般社員も 産業協力会議が提言へ」という記事が目に入った。安部内閣が提唱する、いわゆるホワイトカラーエグゼプション(WE)の事だと思われる。朝日新聞(2014.4.22)の記事を抜粋する。
「政府の産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)は、労働時間にかかわらず賃金が一定になる働き方を一般社員に広げることを検討する。仕事の成果などで賃金が決まる一方、法律で定める労働時間より働いても「残業代ゼロ」になったり、長時間労働の温床になったりするおそれがある。
民間議員の長谷川閑史(やすちか)・経済同友会代表幹事らがまとめ、22日夕に開かれる経済財政諮問会議との合同会議に提言する方向で調整している。6月に改訂する安倍政権の成長戦略に盛り込むことを検討する。いまは部長級などの上級管理職や研究者などの一部専門職に限って、企業が労働時間にかかわらず賃金を一定にして残業代を払わないことが認められている。今回の提言では、この「残業代ゼロ」の対象を広げるよう求める。(略)
対象として、年収が1千万円以上など高収入の社員のほか、高収入でなくても労働組合との合意で認められた社員を検討する。いずれも社員本人の同意を前提にするという。また、当初は従業員の過半数が入る労組がある企業に限り、新入社員などは対象から外す。」
さて、これを僕がいた出版業界に置き換えてみよう。出版社といえば、サービス残業や休日出勤は当たり前で、編集者の労働時間の長さは度々指摘されてきた業界だ。僕は三才ブックス、ワニマガジン社、ミリオン出版、選択出版、朝日新聞出版に勤務していたが(朝日新聞出版は契約)、それぞれ"残業"に関する扱いは大きく異なっていた。
まず、三才ブックスの場合。二十年前だから今は違うかもしれないが、当時は残業代は天井知らずだった。従って残業をすればするほど年収が高くなる。しかし、その残業時間がハンパない。それは僕のようなデキの悪い新人編集者が下手な原稿を書くため、何日も泊まり込み、月の残業が150時間から人によっては300時間という勤務状況だった。そのため、編集長クラスは年収が一千万円は超えていた。僕のような新入社員も800万円近かったと思う。
その代償として、編集者は健康と精神を壊すことになる。僕の同期は二十代にも関わらず、血圧は上が200あり、医師から「このままだと50歳までしか生きられない」と忠告されている。彼はのちに命が惜しくて退社した。
それでなくても編集者の過労死はたびたび耳にする。1997年には24歳の若さで亡くなり、過労死認定された光文社の編集者。2003年1月に記者会見中に突然死した少年ジャンプ編集長といった例が記憶に残っている。
華やかに見える編集者と言えどサラリーマンである。大手だと一千万円の年収は当たり前だが、中小ともなると一生懸命働いたとしても、例えば三才ブックスのように月に150~300時間労働で残業代を合わせて、ようやく一千万円に届くという始末である。
ただし、これは例外だ。残業代が付くような出版社は珍しく、大手以下のほとんどの社員編集者は「サービス残業」を強いられているというのが実情だ。そのため年収を労働時間で割ると、ブラック企業も真っ青な低時給に換算されてしまう。編集者たちの仕事に対する熱意がこの業界を支えているのだ。
ちなみに週刊朝日にいた時はまだ子会社化しておらず、朝日新聞社内になっていた。今はどうかわからないが、当時は「道具を出す課」(正式名称は忘却)の人たちが何人かいた。本当に鉛筆やノートを貸し出すためだけに存在する部署なのだが、彼らは朝日新聞の社員であるため、揃って一千万円を超えていたという話を聞いてびっくりした記憶がある(朝日新聞出版として子会社化してからは、給与体系が変わったはず)。
大手は別として多くの中小出版社、いや、出版だけでなく一般中小企業は残業ゼロなどとうてい望めないのが現状だ。中小零細企業は残業ゼロでは業務を終えることができない「システム」になっている。政府は掛け声だけでなくこの根本原因を具体的にどう変革するのか提示しないと絵に描いた餅にしかならない。安倍首相の残業代ゼロ検討指示は、ブラック企業増加につがなりはしないのか。そのあたりをさらに突き詰めなければいけない。
アベノミクスの売りの一つであるWEを聞いたサラリーマンたちに、シラケた空気が漂うのは当然だと言える。
Written by 久田将義(東京ブレイキングニュース編集長)
Photo by Luke,Ma
【前回記事】
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