新宿歌舞伎町のストリップ劇場『TSミュージック』 が閉館の危機に陥っている。 TSミュージックは新宿区役所のすぐ裏手にある、1977年から営業を続けている老舗のストリップ劇場なのだが、現在の家主に代わってからイザコザが増えたようで、過去の家賃滞納を持ち出されて契約の更新をして貰えなくなったという。
●家賃滞納を発端に「泥沼の訴訟」へ
この家賃滞納については、双方の言い分が言った言わないになっており、TSミュージック側は 「保証金を40ヶ月分入れてあるので、ひとまずそこから引いて欲しいと伝えた」 と主張。また滞納した家賃はあと3ヶ月分まで払い終えていたようだ。しかし家主側は 「そんな話は聞いていない」 と突っぱね、泥沼の訴訟劇になってしまっている。
さて、この問題はストリップに興味のない方にとってはどうでもいい話だろうが、そういう方はまずこの過去記事をお読みいただきたい。
『波紋を呼ぶNHK特集「若年女性の貧困」と「デブ専売春あっせん女」のその後
上の記事の内容をご理解いただけたものとして話を進めるが、これが現在の日本の現実だ。 シングルマザーなど貧困にあえぐ女性にとって、この国には裸商売やアンダーグラウンドにしかセーフティネットがないも同然の、とても近代国家とは言えない弱者切り捨ての状況にある。
ところが、現政府は言葉を選ぼうともせず 「我々にとって望ましい生き方ができない人間の事など知らない」 としか受け取れない暴言を発しており、早急な改善は望むべくもない。 それどころか近々に増税も控えており、今はまだ "普通の暮らし" が営めている人間でも、いつ何時貧困弱者の立場へ落ちるか解らず、今後も格差は広がり続ける一方だろう。
これらを踏まえた上でTSミュージック閉館危機について考えてみるが、今や日本全国にストリップ劇場は23軒しかない。 全盛期は全国に200軒以上あったものが、現在はたった23軒なのだ。
ここまでストリップ劇場が減った理由は、客層の高齢化や、客数の減少などもあるが、何よりネックになっているのは 「どうやったって "わいせつに関する法律" に引っ掛かる」 というリスクの面であろう。
また、TSミュージックの場合は立地も悪かった。 新宿歌舞伎町といえば、石原都政の時代に起きた浄化作戦の最前線である。 今や東京オリンピックに夢を見て、あちこちで様々な人間が暗躍しているが、その中には何を考えているのか 「街からエロを消し去らねばならない」 と思い込んでいる連中がいる。 TSミュージックに対しても、そのような思想の持ち主らが警察に 「東京オリンピックが行われるのに、あんな店が歌舞伎町にあっては日本の恥だ」 といった投書をしていた事が裁判で発覚した。 話は家賃滞納どうこうではなく、もっと別の思惑が潜んでいたのである。
今や男女関係なく日本人の貧困化が深刻な問題となっているが、他に手段がなくなった場合に、男性ならばイリーガルな方向を、そして女性の場合はAVや風俗といった裸仕事を選択肢として考えがちだ。 だが、外から見た場合は裸やセックスを売りにすれば誰でも安定して稼げるように思えるかもしれないが、実際は供給過多にあり、ある程度の容姿がなければ真っ当な仕事をした方が収入が上ということになり兼ねない。 今や風俗やAVで安定して稼ぎたいがために、自発的に借金をして整形をし、その借金を返すために一生懸命裸を売るという、本末転倒な女性が大勢いる。
ストリップにしても、よほどルックスに恵まれていなければ職にありつけないし、運良く踊り子になれても続々と若い女性が下から突き上げてくる訳で、そうそう長くは稼げない。 40代になっても劇場で踊っている姉さん達はいるけれども、それは一握りの選ばれた女性だけである。 このような厳しい生存競争が行われている状況で、貴重な劇場が1軒潰れるとなれば、路頭に迷う女性が続出してしまう。 これ以上生活保護受給者を増やしてどうするのだろうか。 それよりは裸商売でも何でも自立して安全に金を稼げるようにして、税収を増やす方がマシとは思えないだろうか。
そうは言っても、警察からすれば 「だって "わいせつ" なんだもの」 の一点張りだろう。 だがその "わいせつ" の基準自体が時代に合わなくなっているのである。 今やインターネットを使えば容易に男性器も女性器もタダで見放題なのだから、古臭すぎる 「性器を見せてはいけない」 というルールは誰も幸せにしない。 例えば電車の中吊り広告などにヌードや性器を載せるとか、子供も入れるようなお店に性器の写真が陳列されているなら大問題だ。 しかし、現在の日本はエロやバイオレンスに関してかなり厳しくゾーニング・レイティングが施されており、(原則として) 見たくなければ見なくて済み、見たい人間だけが見られるようになっている。 また、様々な法律が整備されたお陰で、特に違法性が高いものや、暴力団と密接に繋がってしまうような物は、わいせつを持ち出さずとも取り締まれるようになっている。 であるならば、社会的弱者が自分の力で収入を得ることの妨げになるような "わいせつ認定" は必要ないのではなかろうか。
●何かが地下へ潜れば暴力団が潤うだけに
我々が産まれた時から 「女性器や男性器にはモザイクが入れられるのが当たり前」 という世の中だったが、理屈で考えてみたら性器を隠す理由など何もない。 刑法・刑罰を考える際には、必ず法益について考慮せねばならない。 その刑法・刑罰がある事によって、誰が得をするのか、また誰が守れるのかといった具合だ。 では性器をわいせつ物として隠す事によって、どんな法益に叶うのだろうか。
残念ながら、現在の "わいせつ" という代物は、特定の人間に利権を与えるためにしか働いていない。 AVの審査団体にしろ、その他の民間団体にしろ、社会風紀に関する団体には多くの警察OBが天下っている。 そういう連中を食わす理由付けとして最も効果的なのが "わいせつ" なのだ。 今や昔に比べたら気楽に性器を見られる時代になったが、それによって犯罪発生件数が増えたかと言えばそんな事実はない。「警察OBを食わさねばならない」 という点さえ無視できれば、性器を隠す必要などないのだ。
言い換えれば 「公序良俗に反する」 と、警察・政治家・官僚OBらに尤もらしい稼ぎ口を与えるために次々と 「○○規制」 が増え、その度に弱い立場の国民が犠牲にされ、また文化を失い続けているのが日本という国である。 対外的な面で言えば、街にエロがあることよりも、このような中世で時間が止まったかのような国の在り方の方がよほど恥ずかしい。
また行き過ぎた規制は治安の悪化に繋がる可能性も大きい。 例えばこれだけ無店舗型の風俗、いわゆるデリヘルが増えたのは、TSミュージックと同様に店舗経営が難しくなったからだ。 性風俗店やストリップの類は、今ある店舗から追い出されたら、風営法の兼ね合いで新規に店を開く事が実質上不可能になっている。 そのせいで風俗業界は一斉に派遣型にシフトし、地下に潜ってしまい、風俗嬢が犯罪に巻き込まれる危険度が段違いに跳ね上がった。 おまけに警察でも誰が何をやっているのかという実態を完全には把握できなくなってしまった。 何かが地下に潜れば暴力団が潤うだけというのが真理なのだから、警察は意味の解らない規制や弾圧を繰り返して、暴力団にシノギを与えているようなものだと言えよう。 現在の警察のやり方、性に関する刑法の存在は、まったくもって逆効果である。
●オトナだけに許された場所" は絶対に必要
批判ばかりでは芸がないので、オリンピックを前にしてどのような街づくりをすべきか提案も書いておく。 これは警察のやろうとしている事とはまるで逆なのだが、歌舞伎町などは風俗特区・エロ特区としてしまうべきだ。 特区内は原則として子供の立ち入りを禁じ、一般企業なども置けないようにする。 その代わり、その特区の中では性器を露出するショーだろうと店舗型の風俗だろうと認めてしまう。 合法であると認められれば、参入する民間企業も現れるだろうし、一般人が増えて可視化が進めば暴力団も無茶は出来なくなる。 今は暴対法という厳しい法律があるのだから、それがなかった昔とは状況がまるで違うという点を忘れるべきではない。
このように世の中のグレーゾーンを特区内に限って許すことで、一箇所に集めて可視化すれば、想定されるリスクの多くを回避できる。 規制を強め過ぎて暴力団の縄張りが広がり、警察すら実態が把握できなくなるという失敗を何度も繰り返すのではなく、これくらいの方針転換があっても良いのではないだろうか。 OBに食わすという意味でも、特区には監視役が絶対に必要なのだから、仕事には困らないだろう。
また国の収益という面でも、東京オリンピックで日本を訪れた外国人が、エロもヨゴレも何もかも消え去ったキレイキレイな街ばかり見せられたらどう思うだろうか。 OTAKUや日本式のエロを期待して夜を楽しみにして来る客も大勢いるだろうに、画一化された世界のどこにでもありそうな清潔なだけの街に、お金を落としたいと考えるだろうか。 そうした "お客様" からお金をいただく意味でも、"オトナだけに許された場所" は絶対に必要なのだ。
このように、あらゆる角度から見て日本のわいせつや性に関する刑法は時代遅れであり、今や弱い者いじめにしかなっていない。 いったい誰が為のわいせつ規制、言うなれば "性の規制" なのだろうか。
※歌舞伎町・TSミュージックでは、存続を求める著名運動をしています。
http://www.ts-music.co.jp/wp-content/uploads/2015/10/d3588d4d8fbf8188a70921fcbcab673f1.pdf
※進捗情報などは公式Twitterおよび公式サイトで
https://twitter.com/shinjukutsmusic
Written by 荒井禎雄
Photo by 歌舞伎町・TSミュージック公式
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