この日だけは本当にお気をつけを(写真はイメージです)
11月15日に山に入ってはいけない理由
「死にたくなかったら、11月15日に山に入るのはおやめなさい」こんなことを言うとオカルト記事のように思われますが、決してそうではありません。
11月15日は北海道を除く地域での狩猟解禁日(北海道では10月1日解禁)で、この日は「待ってました」とばかり全国からハンターが押し寄せる日なのです。
「狩猟解禁日と山に入ってはいけないことに何か関係があるの?」と思われるかもしれませんが、これが大ありです。狩猟解禁日は、鳥も獣も油断しており、最も収獲が期待できる日といえます。獲物の気配があれば、猟場に集まってきたライバルたちよりも0.1秒でも早く引き金を引きたい。
そんな目が血走ったハンターが集まる山にノコノコと出て行けば、危険でないほうがむしろ不思議です。
ライセンスを持っている人が年間1.2人の大事故を起こす
「でも、銃猟をする人は免許を持っているはずだし、事故を起こさないように厳しい教育を受けているでしょう。狩猟事故って本当に起きるの?」とは当然の疑問です。
確かに、銃砲を持つためには都道府県公安委員会から所持許可を得なければいけませんし、狩猟をするにはそれに加えて都道府県知事から狩猟免許を受ける必要があります。両者とも学科試験と実技試験がありますし、3年ごとの更新制で、心身の健康状態についてもきちんと審査されます。
そんな厳しい審査を通り抜けてきたはずなのに事故は起きています。警察庁によると、平成15年~平成21年の7年間で狩猟事故は163件発生しており、うち死亡は25件(15%)、重傷が62件(38%)、軽傷が76件(47%)となっています。「年間1.2人、猟銃で撃たれて人が死ぬか大ケガをする」状況なのです。
高齢化と練習不足 中には密猟を自慢する輩も
なぜ、そんな重大事故が起きるのか? ひとつにはハンターの高齢化と慣れによる油断が挙げられます。現在、狩猟を行う人は60歳以上と高齢化が進んでいます。銃砲に対する規制強化や煩雑な手続を嫌い、あるいは趣味も多様化しているので20代や30代の若い人はあまり入ってきません。
免許更新のためには視聴覚や運動能力の審査はあるものの、歳を取ればどうしても体が衰え、獲物か人かハッキリしないうちに撃ったり、銃を持ったまま転倒し、暴発による事故を起こしやすくなります。
狩猟事故原因の44%は暴発、36%は矢先の安全不確認であるため、初めて出猟する前に十分な射撃練習を行い、体を慣らしておけば事故は防げたものと思われます。ところが、ハンターのほとんどが職業猟師ではなく、サラリーマンや自営業者が趣味としてやっている日曜ハンターです。また猟場の縮小もあって経験不足のまま、いきなり出猟して事故を起こすわけです。銃刀法では、出猟前の射撃練習が努力規定として定められているのに、練習をしないで11月15日の解禁日を迎える人も少なくありません。わずか1万円程度の事前射撃練習によって勘を取り戻し、大事故を防げるならどれだけ練習が大切か分かるはずですが...。
また、恥ずべき実態として、ハンターの中には密猟を半ば武勇伝を語るように自慢話のネタにする人がいます。日没後、木の葉が散るようにカモが戻ってくる田んぼに向けて散弾銃を乱射し、翌朝回収する(日没後の発射は違法)とか、禁猟区だが獲物が多い山に入って発射音が小さい空気銃で密猟(むろん禁猟区での狩猟は違法)するとか、免許を持つ者としてどうなのかなと強い疑問を感じます。
安全服装で我が身を守れ!
よって、11月15日近辺に用があって山に入るなら、安全のためなるべく赤っぽい服や赤っぽい帽子を着用することです。大日本猟友会が会員に推奨している安全ベストや安全帽子は橙色をしています。自分の存在を知らせるため、ラジオを大きめに鳴らすのもよいでしょう。
楽しいハイキングや山歩きを一部の不注意なハンターによって台無しにされないよう、少し悲しいことではありますが自分の身は自分で守る時代なのです。
取材・文◎駒場文一