警視庁トップの高橋清孝警視総監が、新宿署幹部らから腰が曲がるような大仰な挨拶で迎えられたのは、昨年末12月22日夜のこと。場所は東京随一の繁華街・歌舞伎町だ。この権力の地回りさながらの視察は恒例行事であり、一線で体を張る警察官はもちろん、歌舞伎町の"住人"たちにも実質的な影響はない。しかしそんな茶番、と言って過言ならパフォーマンスの裏側で、いま歌舞伎町の住人は中国人娼婦の進出にいら立ちを隠せずにいるのだ。
旧ランドマーク・風林会館近くに店を構える老舗飲食店店長がいう。
「10年ほど前から歌舞伎町には中国人の立ちんぼが増えたけど、ここ数年はその数が倍くらいになった。たちんぼがいても構わないんだけど、彼女たちがあまりにも大胆というか、勝手きままというか......。
ともかく、店の前の階段には座り込む、そこら辺に駐輪してある自転車やバイクに座ってメシを食うなどやりたい放題。さすがに店の前の階段に座られると営業妨害になるから、警察を呼ぶんだけど、それもそのときだけ。またしばらくするとたむろしてくるんだよ」
警察官は特にたちんぼたちを取り締まることもなく、店の前から排除しただけで去って行ってしまったそうだ。彼らからすれば畑にたかるイナゴみたいなもので、特別警戒でもなければ力を入れても仕方がない、ということなのだろうか。
ちなみに筆者も歌舞伎町では時折、中国人たちんぼに声をかけられる。「オニイサン」「アソンデイカナイ」などが定番だが、相場は概ね2万円ほどだ。実はこの中国人たちんぼたちの増加は、前述した権力の地回りの影響を少なからず受けている。別の店舗のベテラン従業員の話だ。
「歌舞伎町ルネッサンスとかで、街のイメージを変えようとしているでしょ? それが大きいと思うよ。ともかく、地面店の風俗はこれでもかというくらい目をつけられる。ここ20年ほどで歌舞伎の店舗型風俗店はほとんど閉店した。
それだけじゃなく、だれでも知っている老舗の許可風俗店が最近、早朝の営業を止めたりしている。これなんかも関係あるのかなぁ、と思っちゃうよね。俺は仕事終わりにあそこでヌクのが好きだったからさ(笑)」
この従業員がいうように、歌舞伎町の商興組合(商店街振興組合)などが、街をあげて歌舞伎町ルネッサンスに取り組んでいるのは確かだ。だが、実際に組合の人間たちの話を聞く限りは、なにがなんでも浄化ありきではないようだ。彼らは、歌舞伎町らしい「多様性」の大切さを身に染みて知っている。つまりは、いわゆる浄化に血道をあげているのは、警察を始めとするお上だけなのだ。
その結果として、たちんぼなどの違法風俗が歌舞伎町をわが物顔で闊歩するようになった。また、最近とみに悪名高いアフリカ系外国人たちによるぼったくりバーもその流れのひとつだ。お上が杓子定規で規制すればするほど、悪徳業者が流行る......この風俗村のアイロニーが理解されない以上、このような状況は終わらない。まして、東京オリンピックに向けて、さらなる浄化が続くならなおさら、である。
取材・文◎鈴木光司
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