さほど給料は良くないものの、強い正義感や興味本位から保安員(万引きGメン)を目指す人は多い。永年に渡って保安業界にいる俺は、入社面接や研修会、それにインターン教育などでたくさんの新人保安員と接してきた。無論、その中には変わった人もいて、何かを勘違いした人達が多数存在している。今回は、そうした人達の奇行ともいえる行動にスポットを当てて、保安業界の裏側に迫りたい。
●職務質問する女
元警察官や婦人警官が警備会社に転職する例は珍しくなく、その中には保安員として採用される者もいる。だが、刑事捜査の最前線で活躍していたような人が入社することは稀で、初めから万引きする人を見分ける能力を持つ人は少ない。以前に採用された四十代前半の元婦人警官もそうだった。
民間の警備員である我々保安員は、公権力を有する警察官と違って、所持品検査や職務質問に類似する行為を警備業法で禁じられている。ところが彼女は、自分が少しでも怪しいと感じた来店者に次々と声をかけて、所持品検査までしてしまうのだ。もちろん、犯行を見ないまま勘だけを頼りに声をかけているので、ブツが出てくることはない。
声をかけられた側からすれば、この上なく不愉快な心情になるだろう。ユーザーからのクレームを受けて彼女を呼び出し、研修で学んだことを順守するように強く促すと、居直った彼女は真顔で言った。
「捜査協力を求めることが、なぜいけないのでしょうか」
いまだ、警察官気取りなのである。警備業法を守ろうとしない彼女が、その場で解雇されたことは言うまでもない。
●匍匐前進する男
サバイバルゲームが趣味で、普段から迷彩柄の服を愛用している新人保安員が、大型スーパーでの勤務中に「変な人がいる」と来店客に通報された。人気の少ない店内の死角にいる制服姿の女子高生を、匍匐前進の体勢で注視していたところ、彼女の下着を覗く痴漢だと判断した一般客に通報されたというのだ。
通報を受けて駆けつけた警察官に職務質問された彼は、事情を説明して否認を続けたが、女子高生が被害届を出したことから逮捕された。警察からみても、店内で匍匐前進する保安員など見たこともなければ聞いたこともないので、話を信じてもらえなかったのである。
不審者を探す立場であるはずの保安員が、その店一番の不審者になっている事実が重い。数ヵ月後、三十万円の罰金刑が確定して退職を余儀なくされた彼は、冤罪を主張しながら辞めていった。
●セクシー保安員
我々保安員の仕事は目立ってはいけない職種である上、逃走された場合に対応できないことなどから、勤務時にミニスカートとハイヒールを着用することを内規で禁じられている。それにも拘らず、濃いめの化粧を施し、胸元が大きく開いた服にミニスカート、さらにはハイヒールという姿で巡回する二十代前半のヤンママ保安員がいた。
何度指導しても「夜の仕事があるから」と譲らないのである。それでも解雇しなかったのは、入社してから数カ月の間に、彼女を指名してくるユーザーが増えたからだ。仕方なく、送り込む現場を指名店舗に限定して勤務させていると、そんな彼女が大きな事件を起こした。勤務時間中に、現場近くのラブホテルから店長(52)と一緒に出てくるところを、定期巡察(警備会社側による定期的な見回りのこと)で目撃されたのだ。
お相手が店長であるため、確かな証拠を掴むべく彼女に内偵を入れてみれば、指名を受けていた店の店長全員と関係を結んでいることが判明。数多くの指名をもらえる理由は、ここにあったのである。証拠を突きつけられた彼女は、すぐに退職して現場を去った。
しかし、この話は、これで終わらなかった。退職した彼女がセクハラされたと訴え出て、複数の店長から一千万円を超える慰謝料をせしめたというのだ。もしかして、これを目的に入社したのではないか。そう思えるほどの鮮やかなやり口に、悪い女の恐ろしさを痛感させられた一件であった。
●お祭り男
「なんですか、あの人? 変な人だから帰ってもらいたいんだけど......」
とある夏の日。中規模スーパーの店長より、かなり強めのクレームを頂戴した。その現場には、入社まもない二十代後半の男性保安員が入っていて、電話連絡をしてみるとクレームをつけられるようなことはしていないと言い張る。状況を確認するべく、営業部長と現場に駆けつけると、背中に大きく「祭」と書かれた"はっぴ"を着て巡回している彼の姿が目に入った。ご丁寧なことに、頭にハチマキまで巻いて、怪しく店内を歩き回っている有様だ。怒った営業部長が、店内から彼を連れ出して怒鳴った。
「そんな格好で現場に入るなんて、君は一体、何を考えているんだ!」
「地元町会の人を装っているんですよ。今日は夏祭りの日だから、全然不自然じゃないでしょう?」
呆れて言葉を失った営業部長に胸を張った彼は、すぐに帰されて、その翌日に解雇された。
保安員を目指してみたものの、数カ月で解雇されてしまった人達の話である。実際に現場で活躍しているプロの保安員は、皆さん真面目に勤務されているので、誤解されることのないよう改めて申し添えておきたい。
Written by 伊東ゆう
Photo by 万引きの文化史
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