飲食店トイレから洗剤や芳香剤を持ち出す「備品泥棒」急増の実態|万引きGメンの事件ファイル

2015年06月12日 万引きGメン 備品泥棒

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 ここのところ、万引きや内部不正のみならず、備品などを持ち去る迷惑客について相談されるケースが増えてきた。その被害は軽微で、なんともチンケな犯行であるが、捕らえられれば罪に問われる立派な犯罪だ。今回は、知られざる備品泥棒の実態を紹介したい。

●アメニティ狙いで棚の中の在庫まで持ち出されるように

 昨年末、東京の下町で焼肉店を営む友人から相談を受けた。トイレで保管している店の備品を持ち去る常連客がおり、対応に苦慮しているというのだ。その被害は数年に渡り、はじめこそトイレットペーパーがなくなるくらいの被害であったが、改装を機にトイレのアメニティを充実させると棚の中にある備品の在庫まで持ち出されるようになったらしい。

 さほど大きな被害ではないものの、定期的に持ち出されてしまえば、その損失は見過ごせない。犯人を特定するべく、店の出入口に設置された防犯カメラの映像を検証した結果、近所に住む老夫婦の犯行であることが判明。常連客であるし、警察沙汰にするまでもない話なので、有効な対応策を教えてくれというのである。

 このような犯行は、スーパーやショッピングモールをはじめ、ホテルや飲食店などでも増加傾向にある。トイレ備品のみならず、食器や調味料などを持ち出す者まで存在しており、店内の装飾品を持ち出される被害も少なくない。ちなみにスーパーなどでは、菓子や飲料などについた景品やパン製品の特典応募シールだけを持ち去る被害が頻発しており、その対応に苦慮している店は多い。

 大きな被害を生んでいることは明らかであるし、他店で犯行に及んでいる可能性を考えれば、近所に住む人とはいえ警察に相談するべきだろう。そう進言すると、大きな騒ぎにはしたくないので、秘密裏に捕捉してくれと頼まれた。なかなか聞かない話であるし、さほど難しい事案でもなさそうなので、喜んで引き受けることにする。

 年明けしてまもなく、犯人と思しき老夫婦から予約が入ったという連絡を受け、ひとり現場に出向いた。トイレにおける目視での現認は不可能なので、在庫が保管されている棚の中にカメラを仕掛けて、明確な証拠を押さえることにする。監視対象者が不審な動きをみせれば、早急に映像を確認して、それを証拠に声をかけるという算段だ。

 予約時間ぴったりに来店した老夫婦の監視を続けていると、食事を終えたらしい妻が、小さなポーチを持ってトイレに入った。手にあるポーチに入れられる大きさの備品はない。もしかしたら、夫の方が実行役なのだろうか。そんな思いで扉を見つめていると、大きく膨らんだレジ袋を持った妻がトイレから出てきた。手にあるレジ袋は、持ち込んだポーチの中にでも隠しておいたのだろう。その形状をみれば、トイレットペーパーの形に歪んでおり、仕掛けたカメラの映像を確認するまでもない状況だ。何食わぬ顔で会計を済ませ、そそくさと店の外に出た老夫婦を呼び止める。

「こんばんは。トイレに置いてあるモノ、持っていかれちゃうと困るんですけど......」

「え? ああ......。いや、そんなつもりじゃないです」

「では、どういうつもりで?」

「いや、あの......、よく来る店だから......」

 盗品を詰めたレジ袋が、夫の手に握られているところをみれば、共犯関係にあるに違いない。動揺する老夫婦を事務所に連行して、店主立ち会いのもとレジ袋の中身を出させると、洗剤、芳香剤、ハンドソープ、マウスウォッシュ、トイレットペーパーなどの在庫をはじめ、一味唐辛子や爪楊枝、さらには使用中のトイレットペーパーまで出てきた。

「ずっと前から、何回もやってますよね?」

「お店が綺麗になったから、なんか勘違いしちゃったの。ホントにごめんなさいね。おほほほ......」

「笑いごとじゃないでしょう。立派な犯罪なんですよ」

 すると、おもむろに財布を取り出した夫が、数枚の一万円札を抜き取って店主に押しつけた。

「犯罪とかじゃなくて、ちょっと勘違いしただけのことですから、これで勘弁してくださいよ」

「勘違いとか、そういう問題じゃないでしょう」

「じゃあ、これ以上、どうしろっていうんだよ?」

 これは万引きの現場においてもいえることだが、年の離れた者に対して頭を下げることに抵抗があるのか、悪いことをして捕まっても謝らずに居直る高齢者は数多く存在しており、その悪態にイラつかされることは多い。素直に謝罪すれば穏便に済ませるつもりでいた店主も、老夫婦の厚かましさに呆れて怒り心頭の様子だ。

「そんな態度でいるなら、警察を呼ばせてもらいますよ。もう、ご近所とかは関係ないですから......」

 警察に引き渡された老夫婦は、どちらかに何かしらの前科があるらしく、その場で逮捕されることになった。

 数日後、事件を担当することになった弁護士が、老夫婦の娘を伴って謝罪に現れた。夫婦には置き引きの前科があるらしく、執行猶予中ではないものの、起訴されてしまえば実刑になる可能性が捨てきれないので示談してほしいというのである。その金額は、三十万円。和解したうえに宥恕文まで書いてあげたというから、おそらくは罰金刑で済むだろうが、近所の店で犯した愚行の代償はあまりに大きい。この事件をきっかけに、二人の手癖が改善されると良いのだが......。

Written by 伊東ゆう

Photo by Karsten Hitzschke

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万引きGメンは見た!

居直っちゃダメ。

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