「盗人にも三分の理」とはよく言ったもので、捕捉された万引き犯の多くは、犯した罪から逃れようと様々な言い訳を口にする。それを聞いて重い現実に同情することもあれば、荒唐無稽な話にイラつき、居直る万引き犯に言い知れぬ怒りをおぼえることもある。
「今日は、どうしたの?」
俺は自分が捕捉した万引き犯に、その理由を必ず聞いてきた。なぜ、人は万引きするのか。それが知りたいのだ。今回は、過去十数年に渡って三千人以上の万引き犯を捕捉してきた筆者が耳にした数々の言い訳から、常習犯の心に潜む闇に迫る。
高齢万引き犯の言い訳といえば「魔がさした」というのが定番であるが、最近では突然呆け始めたり「買物にくるとパーっとなっちゃう病気なんです」などと言って、自分の行為能力が無効であるかのように詐病を用いる者が目立つ。「末期癌と診断されてヤケになった」と、悲劇の主人公を装って同情を誘う者までいる。万引きした言い訳に病気を使う者が増えた背景には、責任能力を争えば無罪になるという思い込みと、無縁社会が生み出す寂寥感があるといえる。
そして、我々保安員ならずとも、聞いていて一番頭にくるのが反省無き居直りの言葉だ。声をかけた瞬間から「なんですか、どれですか」と挑戦的な態度を取る常習犯の多くは、証拠を突きつけられても「自分のモノだ」と否認を続ける。酷いのになると「勝手に入れられた」などと事実を捏造したり「あなたが見たからって証拠になるのか」と突っかかってくる者までいるので始末が悪い。「こんなちっちゃいことで大騒ぎしやがって......」と居直る被疑者も少なくないが、その多くは会社を倒産させた経験を持つ元経営者で、昔の威光を捨てきれないタイプといえる。
それとは逆に、百貨店で外商を引き連れて歩くセレブ系の主婦を捕捉した時には、しっかりと現認しているにも拘らずクライアントに叱責された。お得意様という立場が犯罪をもみ消す図式に、拝金主義の真髄を見せつけられた俺は、得体のしれない怒りに身を震わせたものだ。自分の非を認めることなく、犯した罪を受け入れようとしない彼らが、心から反省することはないだろう。
また意外なことに、報復を理由とする万引き常習者も少なくない。「店員の態度が悪くてムカついた」とか「面接で落とされた」「解雇された」など従業員に対する逆恨みから犯行に至る者をはじめ、他店より高かったモノを買わされたことで損した分を万引きで取り返すという屈折した節約心から、小さな犯行を繰り返す主婦もいた。
特筆すべきは、大型ショッピングモールの進出により閉店を余儀なくされた地元商店主の一家が「客を取られて店を潰されたから、弁償してもらうつもりで盗った」と、家族ぐるみで犯行を繰り返していた事案に遭遇したことだ。同情すべき点は確かにあるが、全てを他人のせいにする自分勝手な思考は理解できない。
さらには「(彼氏や彼女に)プレゼントしたかった」という少年万引き犯や「孫に新しい服を着せたかった」とむせび泣く老婆もいる。盗んだモノを大切な人にプレゼントする心境は、如何なるものか。彼らの心に潜む闇は、きっと消えない。
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Written by 伊東ゆう
Photo by 万引きGメンは見た!