「那須川天心vs武尊戦は実現させなければいけない」 RIZIN榊原CEOに聞いた コロナ禍で苦境に立つ格闘技を盛り上げるには(後編)
「ですから、来年は国立競技場は、使わないんだから貸してもらうとか、ですね(笑)。維持費だけでも年間大変な額がかかるわけじゃないですか。だったら僕らが『格闘技の祭典』をしますよ(笑)」
――ホントですね。国立競技場開催は、めちゃめちゃ夢があるので頑張っていただきたいです。
「そういう将来に向けたリスタートが8月9日、10日です。そこは最大限の感染予防対策をしたうえで」
――やらないとまた世間が(苦笑)。
「はい。ただ7月の10日からはJリーグもプロ野球も5000人入れてスタートしますから」
――半分は入れるんですよね。
「いや、ドームでいえば3~4万人入りますからそれ以下ですね。でも、5000人で採算取っていくのは無理ですから。われわれだって「ぴあアリーナ」で、1万人の会場で1日5000人しか入れられないわけだから、そうすると売上は半減じゃないですか。チケットの収入が半減することを担う、さらなる新しい事業の収入の柱を立てないといけません。選手のファイトマネーも半額、プロダクションコストも半額、何もかも半額にして大会やっていくのかっていうことになりますから」
――原価率を下げざるを得ない?
「原価率を下げるか、チケットセールス以外の収入項目を立てる。それかチケット代を倍にする。今まで1万円だった平均チケット単価を2万円にするとか、そういうことでもしないと今までの環境は維持できないわけですよ。当然、経費の削減に向けて最大限の努力はしますが、エンターテインメントでみんなにワクワクドキドキを売る仕事ですから、『めちゃくちゃチープで貧乏くさっ!』みたいになるのは違うと思うので」
――演出の有無によって大会のブランドが下がりますからね。
「そう。あとはネットの配信とか新しい形での事業モデルを作り出すっていうことだと思います」
榊原CEOが求む色気のある選手とは「最近はナルシスト選手が多い。ナルシストって見たいですか?」
――入場から試合をやって、最後にマイク、あるいはマイクをしないまでも退場していく姿をファンに印象づけるのがアマとプロの格闘家の違いだと思うんですけど、榊原さんから見てそういう選手ってどなたかいらっしゃいますか?
「(即座に)昔でいえば圧倒的に桜庭和志じゃないですか?」
――やっぱりそうですか。
「プロとして見せる魅せるという意識においてはそうでしょう。だって、公言した技を毎試合披露するんですよ。そんな選手は後にも先にもいないですよ。それも自分の開発した技を。「炎のコマ」「恥ずかし固め」「モンゴリアンチョップ」とかね。ホイス戦でモンゴリアンチョップをやるって言ってやるんですよ。そんな選手はこれだけ格闘技が進化しても出ないですよ。オリジナル技を持っている選手はいますけど、それが有言実行できた選手は僕が記憶するなかでは桜庭だけですね」
――入場も入場曲(SPEED TK RE-MIX)もカッコよかったですよね。
「そうですね。魅せるということに関しては、毎回マスク被ってきたり、常にファンを喜ばせることを考え、それをリアルファイトの場所で実現する才能やユーモアのセンスを持っていたってことですよね。
そこと比べちゃうと、現状でRIZINに出てきている選手っていうのは、ナルシストはいっぱいいるんですけど、ナルシストなんて見たくないんですよ(笑)。そこを勘違いして、『俺は魅せているんだ』て言われてもね。そうではなく、仮に自分を落としてでもお客を楽しませるのがエンターテイナーなんだから。カッコつけで、キメた曲にノリノリで長い時間をかけて出てきても、それでファンはノレないっていう(苦笑)」
――……それは痛いですね。
「まぁ、誰もができることではないですけどね。色気があって、確固たる世界観を持って、その選手が出てくると、会場の空気が変えられるみたいな選手って、一握りですから」
―ーそういう選手は今、誰ですか?
「やっぱり天心はそこに近いものがありますね」
――矢沢永吉さんの曲がかかると、会場のお客さんの空気が変わりますね。
「天心にはそういうところがあるのかなという気がしますけど、ここからの那須川天心の男としての色気とか、戦う男の哀愁とか、どう転がしていくか、昇華していくかっていうのは見ものですね」
――まだ20代前半ですもんね。
「22歳ですからね。今までは若さと弾けるようなエネルギーを前面に出すことでよかったんだろうけど」
――少し以前とは言え、去年リングに上がった五味隆典さんの入場シーンが好きで、曲がかかった途端に会場が変わります。あの曲は毎日テンション上げるために聴いてます。本サイトでインタビューした中では朝倉未来選手もすごくいいですね。色気があるなと思いました。
「そうだね、未来とか(朝倉)海はどっちかというと、飾らない姿で自分の世界観で曲と雰囲気が合っていますよね」
――合っています。あるいは堀口選手がニコニコしてハイタッチするのもいいですし。
「プロである以上はそういうところまでエンターテイナーとして最高であることを求められるので。簡単なことではないですが、RIZINのリングに上がる以上は、その意識を持ってもらいたいなと思います」
と、いう事で榊原社長には率直に胸の内を語って頂きました。このコロナという逆風の中、いかに格闘技界盛り上るのか、苦心と熱を感じました。盛り上げるにはやはりの単独の団体だけではこの、厳しい現実を乗り越えるのは難しい。そこでインタビュー中に名前が出た、もう一つのメジャー団体K-1に取材を申し込んでみました。次号にて。(文◎久田将義 写真◎©RIZIN FF)
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