お金ちょうだい... 深夜の路地で包丁を持った男にこう後ろから声をかけられたら 裁判で語られた恐怖

2019年03月08日 包丁 女性を脅す 懲役 裁判傍聴 鈴木孔明

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 細川大河(仮名、裁判当時21歳)は中学卒業後、鉄筋工や解体工などの職を転々としていましたがどこも人間関係がイヤになってすぐに辞めてしまい長続きしませんでした。

 母親と仲違いして実家を飛び出してからは漫画喫茶や交際していた女性の家で寝泊まりしていて住所不定の状態を続けながら時々日雇いの仕事に行って生活していたようです。彼は日雇いで得た賃金を貯金することもなく、すべて酒代や飲食代、漫画喫茶の代金で使いきってしまっていました。

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 お金があるうちは遊んで過ごし、お金がなくなれば日雇いの仕事に行く、そんな刹那的な生活を何年も続けていたのです。

「お金はもらってからすぐに使ってました。事件当時はお酒を我慢できなくてお金を貯めることはできませんでした」

 と供述しています。
 ある時、彼は体調を崩して寝込んでしまい一週間仕事に行けなくなってしまいました。この一週間の休みで、貯金が全くない彼は行き詰まりました。交際していた女性も含め、彼にはお金の相談をできるような知人は一人もいません。

「やるしかない、と思いました」

 彼は犯行を決意しました。


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 被害者の女性(事件当時47歳)は仕事を終え帰宅する途中でした。周りに人も少ない公園内を歩いている時に見知らぬ男性、細川に声をかけられました。

「駅はどっちですか?」

 そう聞いてくる彼に対して、被害女性は駅の方向を説明してから歩きだしました。しかし彼は駅と反対方向に歩く被害女性の後ろをつけてきて後ろからまた声をかけてきました。

「お金、ちょうだい」

 振り向くと彼は手に包丁を持っていました。被害女性は叫ぼうとしましたが、彼に腕を引っ張られて公園内の暗がりへ連れ込まれ包丁を突きつけられました。

「お金、ちょうだい」

 いつ刺されるかわからない、そんな恐怖で思わず被害女性は泣き出してしまいました。そのことに一切構わず彼は繰り返しました。

「少しでいいから、お金、ちょうだい」

 財布から4000円出して彼に渡すと、彼はそれ以上は何もせず去っていきました。


刑が軽いのならやってもいい


「包丁で脅したのは事実です。罪になるのはわかってました。でも今までの窃盗と同じくらいの罪で、重い罪だとは思ってませんでした」

 法廷でこのように語っていた彼には4件の窃盗罪の前歴があります。彼が今回起訴されていた強盗罪の法定刑は5年以上の有期懲役です。執行猶予がつくことはあまりありません。今まで彼が犯してきた窃盗罪とは罪の重さがまったく違うものです。

 彼がもしこれだけ刑が重いと事前に知っていたら犯行を思いとどまったのかどうか、それはわかりません。彼の発言を聞くと「今までの窃盗と同じくらい」の刑が軽い犯罪ならばやっても仕方ない、と思っているようにも取れてしまいます。

 彼が逮捕されたのは犯行の約1ヶ月後です。犯行後、奪い取ったお金は飲食代としてすぐに使いきり、事件前と生活は何も変わりませんでした。お金があるうちはダラダラと過ごし、お金がなくなれば日雇いに行く生活です。

 一方、被害女性は夜道を歩くことや、男性から声をかけられること、後ろから人に声をかけられることにも恐怖を抱くようになり、事件の日を境に生活は一変しました。

 被害額は金額としてはそう多くありません。しかし彼女は突然、首筋にイレズミをのぞかせている見知らぬ男に包丁を突きつけられたのです。心に刻み込まれたその恐怖心が簡単には消えるはずがありません。被害結果は重大です。

「あまりにも考えなく行動しすぎです。もう少し考えて行動してください」

 裁判官の言葉は彼に届いたのでしょうか。検察官は懲役5年を求刑しました。求刑通りの判決が下されて5年の実刑に服したとすると、出所時には彼は26歳になっています。まだ十分に若く、取り返しのつく年齢です。

 刑務所の中で過ごすこの5年で彼がどう変わるかはわかりません。しかし、変わらなければいけない、その自覚があればどんな人間であっても更正はできると信じています。(取材・文◎鈴木孔明)

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