第三五代アメリカ大統領ジョン・F・ケネディの暗殺から、今月二十二日で半世紀が経過した。遺児キャロライン・ケネディ氏が駐日大使に赴任したこともあって、事件に関する特別番組や新刊は日本でも続きネットでも話題になっている。
米政府の事件の公式調査委員会は、暗殺は元海兵隊員リー・オズワルドの単独犯行であり彼に背後関係はなかったと結論したが、陰謀の存在を信じる人は今も多い。筆者は、この陰謀説は暗殺研究家と自称真犯人の捏造だと考えており、彼らによる半世紀にわたる情報操作の全貌を暴いた『何から何までデッチ上げ:ケネディ暗殺陰謀論は捏造だった』を今月五日に刊行する企画があったが、諸般の事情でボツになり、今現在、原稿をリライトしながら出版社を探しているところだ。
この事件に関しての研究書や自称事件関係者の告白本は有象無象に存在し、アメリカでも五十周忌前後に九〇冊近い新刊がでたほどである。本記事では、日本のネットユーザー向けにポピュラーなケースを説明しよう。
日本で一番有名なJFK暗殺研究書は、"国際政治ジャーナリスト"落合信彦氏の『2039年の真実:ケネディを殺った男たち』(初版1977年)である。同書は版元を変え改訂を重ね、数日前に新版の『二〇世紀最大の謀略:ケネディ暗殺の真実』(小学館文庫)が出るロングセラーとなっている。
この新刊は帯で「本当の(実行犯)の実名がここにある!」と宣伝しているが、これは、事件の黒幕と長年囁かれてきた、シカゴマフィアのボス、サム・ジアンカーナから"真相"を聞いたという実弟チャックと彼の名をもらった息子の共著『DOUBLE CROSS』("裏切り"の意味、以降『ダブル・クロス』と呼称1992年)の記述に依ったものだ。
同書刊行当時落合氏は『SAPIO』『週刊ポスト』誌(共に小学館)の記事で内容を絶賛し、自らの手で『アメリカを葬った男』(光文社)として訳出している。サムは弟にジョンソンとニクソン、CIA幹部やダラス市長、マフィアのボスが事件に関与したと語り、息子サムが落合氏に語ったところでは、本の刊行動機は映画『JFK』が「中途半端」で、「ああいうたぐいのものがJFK暗殺の真実としてまかり通っていいわけがない」(『二〇世紀最大の謀略』四七七ページ)からだという。
だが、事件に詳しい城西国際大学・土田宏教授は本を「どこからどこまでが聞いた話かわからないし、いままで出た話をうまくつなげただけという印象もある」(『JFK暗殺の真実』文芸春秋編、一四八ページ)と評しており、筆者の見解ではこの本には初歩的な誤りや致命的な誤りがあった。『ダブル・クロス』では、落合氏の本の帯で宣伝された"実行犯"たちの実名が挙げられているが、彼らが本当の狙撃者かどうか極めて疑わしい話だった。また、サム(息子の方)は事件の時にはまだ十歳にもなっていないが、そんな彼が何故事情通のように落合氏と話せるのだろうか?
まず、サムは"倉庫ビル六階の狙撃者"はオズワルドでなくマフィアのリチャード・ケインだと断言したという。だが、ケインの腹違いの兄弟でフリーランスライターのマイケルによると、この本が出た後で、彼のところに、マフィア犯行説を採る元下院暗殺調査委員会議長ロバート・ブラッキーと逆の立場であるサムの本にも登場する元FBI捜査官ウイリアム・ローマーから電話が来たが、彼らはケイン狙撃者説を否定する点で一致していたという。
マイケルは、事件当日兄が裁判の証人として証言台に立っていたことを突き止めたが、その裁判の書類が既に破棄されていたため完全なアリバイ確認まではいかなかった。また、サムの本の口絵に掲載されているケインの写真では彼は顔の輪郭が歪むほど度の強い眼鏡をかけているが、ブラッキーによると彼は車の運転ができないほど目が悪く狙撃は無理だというのだ。
(※後半に続く)
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Written by 奥菜秀次
Photo by 二〇世紀最大の謀略 ―ケネディ暗殺の真実―
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