また日本の悪しきご都合主義が露見しました。
去る6月15日に閣議決定された、「外国人労働者の受け入れ拡大」のことです。とりわけ人手不足が深刻な農業、介護、建設、宿泊、造船の5業種を対象に「新たな在留資格」を設け、2025年までに50万人超の受け入れを目指すとのこと。
私は当初、日本もようやく外国人の単純労働に門戸を開くのだなと、好意的に受け止めました。しかし、新制度を紐解くうちに浮かび上がってきたのは、相も変わらぬ日本のご都合主義と閉鎖性でした。
日本はこれまで原則として、外国人の単純労働を認めてきませんでした。しかし実際には「技能実習生」という名の単純労働者が約26万人おり、農業、漁業の現場を支えています。
昨年11月、技能実習生の滞在期間は最大3年から最大5年に延長されました。しかし雇い主からすると、それでも足りない。実習生はもはや現場に欠かせない労働力であり、5年で去られては困るわけです。
政府が今回、新制度の創設に踏み切った背景には、こうした産業界からの切実な要望があります。
新たな在留資格は、最長5年間の技能実習を修了した外国人に、さらに最長で5年間、就労できる資格を与えるというもの。要するに、5年が過ぎると帰国してしまう人材を就労資格で残し、人手不足に対処するという目算です。
5年と5年で計10年になります。この「10年」というのは外国人労働者にとって大きな意味を持ちます。
外国人が日本で「永住権」を取得する要件の1つが、継続して10年以上滞在することです。つまり、技能実習の5年間を終了した人は、新たな在留資格でさらに5年滞在すれば、永住権の取得要件を満たすことになります。
しかし政府は、そうはさせまいと「壁」を設けました。
技能実習の5年間を終了した人に関しては、いったん本国に帰ってもらい、再来日した後で新資格(5年間の就労資格)を与える方針とのこと。これだと永住権に必要な「継続して10年以上滞在」という要件から外れるため、永住権を得ることはできません。
外国人労働者の中には、日本を好きになり、永住して働き続けることを望む人も出てくるでしょう。また10年間の就労によって、技能や言葉をマスターし、貴重な戦力として企業に重宝される人材もたくさん出てくるでしょう。
新制度に設けられた「壁」は、こうした外国人が日本で働き続けることを困難にし、結果的に労使双方のメリットを奪う愚策です。
外国人労働者は受け入れたい。
けれども、永住権をもつ外国人労働者が増えるのは避けたい。
これが日本政府の本音です。
永住権を取得すると、母国から家族を呼び寄せることができます。そうなると当然、日本にそのまま留まる外国人が増えます。「移民を受け入れない日本」としては、そうした事態はなんとしても避けたいのです。
新制度は事実上、移民政策です。ところが安倍総理は「移民政策ではない」と言います。安倍政権を支持する保守勢力には移民アレルギーをもつ人が多いため、そう言わざるを得ないのでしょう。
しかし、少子高齢化、労働力人口の減少が進んでいる今、もはや日本式のご都合主義など通用しません。
腹を据えて世界と向き合い、外国人の受け入れ態勢を整えない限り、日本はいつまで経っても本当の先進国にはなれないでしょう。(取材・文◎霧山ノボル)
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