九州場所。横綱・白鵬が14勝1敗で優勝しました。内容は一敗の嘉風戦を抜かして、圧倒的でした。九州場所の間、ワイドショーを始めとするメディアは「日馬富士暴行事件」一色。場所が終わり、これからいよいよ、日馬富士暴行事件は警察、メディアが本格的に追及していく様相でしょう。
この問題は、以下のような流れでした。さんざん、相撲御用メディアにかき回されたので、ここではノイズを消去して整理します。
代表的な「御用ジャーナリスト」横野レイコ氏、
相撲協会の「スポークスマン」池坊保子氏
1・日馬富士がビール瓶で暴行との報道。日馬富士がとんでもないという雰囲気に。
2・貴乃花親方が謝罪に来た日馬富士、伊勢ケ濱親方を無視。ここで貴乃花に疑問符がつく。さらに貴乃花のファッションも良くない感じが出る。
3・白鵬が「ビール瓶では殴っていない」とコメント。また、貴ノ岩の診断書にも疑問符がつく。日馬富士が少し良い感じになり、貴乃花親方が悪い方向へ。
4・相撲ジャーナリストなどが、貴乃花親方がすぐに相撲協会に届け出なかった事に対して疑問を投げるコメントをテレビ、スポーツ紙などで流す。貴乃花親方劣勢に。貴乃花親方VS相撲協会という図式が、より鮮明に。
5・横野レイコ氏、池坊保子氏らも貴乃花親方に対して疑問符。貴乃花親方の立場が悪くなり過ぎた風向き。少し経ってから石原慎太郎元東京都知事らから貴乃花親方へのエールが送られる。
6・旭鷲山と朝青龍の場外乱闘が始まる。これは貴乃花VS相撲協会という図式にはあまり影響はない。
7・貴ノ岩の診断書が二枚というのはおかしいとワイドショーなどで特集。頭蓋底骨折などの医学説明をだらだらと流し始める。診断書がアヤシイ→貴乃花親方が故意に書かせたのでは? というような印象操作とも受け取られる報道をする。
8・ここで、貴ノ岩のコメントが旭鷲山を通して流れる。これで、貴ノ岩がいかに日馬富士から酷い暴行を受けたのかが伝えられ、ワイドショーなどが手の平を返し始める。旭鷲山、他にネタ元はいないのかと思うぐらいテレビに引っ張りだこ。が、さすがにネットでは「出すぎじゃない?」と批判が。
9・さらに、旭鷲山を通してのコメントに貴乃花親方が疑義を呈し、一時流れが停まる。
10・現在、憶測が飛び交い中。「次期、理事選を睨んでの事」「モンゴル力士同士の星の回しあいに貴乃花親方が楔を入れるべく行動した」「白鵬黒幕説」等々。
1~10はほとんどノイズという事は読者もお分かりだと思います。
さて、ここで感じるのが、日馬富士が貴ノ岩に暴行をふるったという肝心なことが飛んでしまっているという事実です。暴行が「あったか、なかったか」というのではなく、それは日馬富士が認めている通り「あった」のだから、そこに焦点を当てて追及しなければならないでしょう。それで話は終わってしまうんですよね、本来は。
一連の報道を見ていると、週刊誌などの外部ジャーナリズムは機能しているが、相撲ジャーナリズムは全く機能していないという事です。これはプロレスジャーナリズムにも似ています。狭い箱の中に、本来相撲を監視しなければならない伝え手が相撲界内の人間になってしまってるという図式です。
協会に笑顔を振りまき、懇意にならなければ取材やインタビューが出来にくい訳ですから、べったりにならざるを得ません。
が、NHKでさえも生放送中に、昨日は白鵬優勝後にもアナウンサーや北の富士親方が日馬富士暴行について言及、苦言を呈しました。
貴乃花の怒りの原点は弟子に対する慈父のごとき愛情の裏返し
貴乃花親方がなぜ、これほどまでに怒っているのか、その理由が垣間見られるシーンがテレビで放送されました。7年くらい前の「情熱大陸」(TBS系列)です。貴乃花親方の弟子たちへの指導は鬼気迫るものがあるのですが、ちゃんこを食べている時に番組スタッフに向かってこう言います。
「この子たち(弟子)が育ったら頼みますよ。皆さん(番組スタッフ)守ってください。世の中の流れから。自分もそうですが、相撲しか知らないものですから」
この「自分は相撲しか知らないで育った」「自分はガキの頃から相撲だけでしたから世の中の事が分からないですよ」というフレーズはたびたび彼の口から出てきます。つまり彼の視線は外に向いているのです。内向きの協会とはベクトルが真逆なんですね。
また番組内では部屋を辞めた元弟子から電話がかかってきます。介護施設に就職するのだという弟子からです。貴乃花親方は電話口に向かってこう言います。
「言っているだろ。どうしようもなくなったら親方(自分)のところに来いって。それまではどんな仕事でもやれ。ドブさらいもやれ。ドブさらいなんて手を突っ込めばいいだけだろ。いいか。汚い仕事ほどキレイなんだぞ。分かるか」
「これから毎月かけてこいよ。な。いや、かけてくれるか」
と笑います。
貴乃花親方はこういった例えは彼にとって不本意でしょうが、僕が取材した"ある昔気質のヤクザの親分と子分の関係"に似ています。彼にとっては弟子は子どもなのです。家族です。今は自分の子どもである貴ノ岩が、モンゴル勢三横綱が集まっている場でボコボコにされました。
貴乃花は二重の意味で怒ったのでしょう。
・一つはモンゴル会に行ったこと。(行くなと言ったかは不明)
・自分の子どもに対して横綱である日馬富士が暴行をふるった。
社会に目を向けている貴乃花親方は貴ノ岩の傷に、世の中ではこれをどう見るのか、世間の気持ちで考えたのではないでしょうか。
「警察に行って被害届を出してもらおう。これは洒落にならない。警察案件だ。相撲協会は事の重大さを分かっていない、第三の司直の手にこの問題はゆだねる」
自分の会社で先輩や上司が部下に診断書が出るほどの怪我を負わされた際、部下は「もう会社はあてにならない。警察に行って個人で戦おう」と思う人がいてもおかしくありません。貴乃花親方の行動と似ています。
全くブレていません、今のところ。
その場で何が起きたのは警察によって明らかになる事でしょう。また、しなくてはなりません。貴乃花の凄まじい弟子への指導はそのまま弟子・子どもへの愛情の裏返しです。学校で子どもが怪我をさせられれば、親は警察に届け出るでしょう。その際、先生は二の次です。一応、先生に言っておくのが良いのですが、警察に届けて傷害事件にしようとする親の気持ちは分かります。
従って貴乃花の気持ちはわかるのです。相当の怒りですが、協会はこの怒りをちゃんと理解・分析する事が大事です。が、それが出来る環境を相撲協会は持っているのでしょうか。
文◎久田将義