詐欺や窃盗を繰り返し日本中を逃亡した殺人者・西口彰の足跡を追う|八木澤高明

2018年04月28日 事件 八木澤高明 昭和 殺人者 西口彰

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西口彰も通った生家近くにある教会(筆者撮影)


 海の目の前には、すぐに山が迫る。海を背にしながら細い山道を歩いていくと両側には段々畑が広がっている。白い頬かむりをして背骨の曲がった老婆がひとり、畑の中で雑草を抜いていた。この辺りに西口彰の生家があったと聞いていた。

 西口彰とは、5人を殺害し、さらには十数件の詐欺や窃盗を働きながら、九州から北海道まで犯罪行脚を続け、警察の捜査をかいくぐり、1963年10月から1964年1月まで、逃亡を続けた犯罪者のことである。
 今も松山の刑務所を脱走した平尾龍磨は逃走中ということもあり、昭和30年代に日本を騒がせた西口のことを振り返りたくなった。

 私は老婆に生家の場所について知っているか尋ねた。
「わざわざ東京から? よう来たね、こんな山の中へ。私がここに嫁いで来た時には、もうここにはおらんかったけど、行ってみるか?」
 老婆は畑仕事の手を休めて、わざわざ私を西口の生家のあった場所へ案内してくれた。右手には鎌を持っていた。マムシが出るから、草を刈りながら行くのだという。

 5分ほど草をかきわけ山道を登っただろうか。家一軒分ほどの空き地に出た。建物は残ってなく、最近増えたというイノシシを捕らえる檻が仕掛けてあった。そこが西口の育った家のあった場所だった。ぼうぼうに伸びた草の間からは、古くは遣唐使船が風待ちをし、室町・戦国時代には、倭冦の拠点になったという入り江が見渡せた。
 
 現在逃亡中の平尾受刑者は、野山に潜みながら窃盗を繰り返し、警察の目から逃れているようだが、西口彰は弁護士や大学教授を名乗りながら巧みに人を騙しての犯罪行脚であった。最後は熊本県玉名市の弁護士宅で、その家の10才の女の子に、電信柱に貼られていた指名手配書とそっくりだと見破られ、逮捕されたのであった。


長崎のキリシタン一家に生まれて


 西口彰の生まれは大阪であるが、本籍地は長崎県五島列島中通島。一家はカトリックの信者で西口も洗礼を受けている。父親の仕事の影響で各地を転々とし、中学は福岡のミッションスクールに通うが2年で中退し、その後窃盗、詐欺を繰り返し、最後に逮捕されるまで刑務所には4回入っていた。

 五島列島と言えば、江戸時代キリシタン弾圧で有名である。西口の育った集落の歴史を調べると、祖先は江戸時代に長崎県大村半島からの入植者だった。当時、大村半島の住民のほとんどはキリシタンだったが、厳しい取り締まりを逃れるため五島列島へとやって来た。
 ただ、「五島は極楽、来てみて地獄」の言葉が残っているように、漁獲量の多い入り江や肥沃な土地は既に先住者がいて、キリシタンたちは、山間にある猫の額ほどの土地か、漁業にもあまり向かない入り江に住まざるを得ず、半農半漁の生活を余儀なくされたという。

 果たして西口彰は、ミッションスクール中退後、なぜ犯罪を重ねていったのか。奇しくも彼が最初に窃盗罪で保護処分を受けたのは16歳の時で昭和16年6月、日本は国家を上げてアメリカとの戦争の道を突き進んでいた。その翌年には詐欺罪で少年刑務所に服役している。
 時代背景と彼がカトリックであることは、何らかの因果関係があるのだろうか。人が犯罪に走るのは、個人の性質も勿論だが、人格形成が行われる生まれ育った環境が少なからず影響するものだと私は思う。

 西口の出身地の村は過疎化が進み、かつて彼の祖先が血の滲む思いで開墾した段々畑を耕す者はいなくなり、開墾以前の森に戻りつつある。そして稀代の犯罪者、西口の記憶も時の積む重ねの中で、いつしか忘れられるのだろう。(取材・文◎八木澤高明)

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