被害に遭われた方々にお悔やみ申し上げます(写真はイメージです)
お屠蘇気分も抜けぬ1月4日早朝、日本3大ドヤ街のひとつである横浜・寿町の簡易宿泊所「O」で火災があり、男女2人が死亡、ひとりが意識不明の重体になるなど、計8人が重軽傷を負った。
火災の原因や火元など現段階で当局は詳らかにしていないが、現場の状況から犠牲者が発見された2部屋(それぞれ、80代の女性と60代男性が居住)のどちらかを火元とみているようだ。
犠牲者となった男女ふたりの年齢からも想像できるよう、寿を始めとするドヤは「労働者の街」から「福祉の街」となって久しい。現実に住民の約8割が生活保護受給者であり、そのほとんどが高齢者だ。また、実質的には福祉の街を通り越して「介護の街」と言ってもいいほど、生活全般に補助が必要な人も少なくはない。そんななか火災が起これば、犠牲者が出る可能性が高いのは予想できることであったのだ。
地元の消防署は、火災を受けてドヤ10棟に立ち入り検査を実施したというが、現場となった「O」では昨年に火災訓練を実施していたともいう。泥縄とまでは言わないが、行政が後手後手に回っている感は否めないだろう。
思い出す、川崎のドヤ放火事件
正月早々、弱者が犠牲となった今回の"事件"だが、筆者はかつて取材した2015年5月に起こった川崎日進町の"放火事件"をどうしても思い出してしまう。その現場は横浜と隣接する政令指定都市である川崎にある「第4のドヤ」。2棟のドヤを全焼させたこの事件は、死者11名を出す大惨事であった。
日進町ドヤ放火事件の概要はこうだ。消防の結論によれば、犯人は深夜2時8分(消防推定)、火元となったドヤ「Y(当時)」のロビーに大量のガソリンを撒いた後に放火したと推測される。猛火に驚いたドヤからの通報がその2分後というから、いかに火の回りが早かったか、言い換えれば犯人がいかに確信的であったかも想像できる。火は瞬く間に「Y」を駆け巡り、隣接するドヤもろとも全焼させる。日進町の住人によれば、現場から離れた線路の反対側からもすさまじい火柱が見えたという。
11人の命を奪ったこの放火の犯人はいまだ不明だが、現場となった2軒のドヤだけが飛び地状態であったこと(日進町のドヤ街は線路の反対側が中心)から、再開発にかかわる黒い手が動いたのでは? という"噂"が当時の一部関係筋で囁かれた。
また、消防の結論が「放火」であり、事件現場が川崎警察署のほぼ隣だったことなども鑑みれば、神奈川県警のメンツにかけて犯人逮捕に動いていい案件だと思うのだが、現時点で警察サイドからの新しい発表はない。
ちなみに、日進町の11人の被害者のひとりにある40代の男性がいた。ドヤの住民によればこの男性は日ごろから高齢者や障碍者の介護・補助に熱心だったという。このことは一見、格差社会の"奈落"にいるような人々にこそ、共助の精神が根付いているという証左ともなった。
今回の寿町の火災で、ネットの一部からはドヤを危険視する声もあがっている。現実のドヤを知らない人たちによる偏見は、再開発派への強い「声援」とはなるであろう。(取材・文◎鈴木光司)
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