写真はイメージです
午後8時半、混雑する埼京線下り電車の車内で事件当時高校生だった少女は見知らぬ男に身体を触られ続けられながら恐怖で助けを求める声は挙げられず、じっと耐えていました。身体をよじるなど彼女なりの精一杯の抵抗はしましたが、痴漢行為は執拗に続けられました。
はじめは太ももをまさぐられ、次にスカートをまくりあげて手を入れられ、下着の中にまで手を入れてきて陰部を弄られました。
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赤羽駅に到着する直前のことです。
「次で降りろ」
男に耳元で囁かれました。駅につくと強い力で腕を引っ張られ、有無を言わさず下車させられ、そのままエレベーターに連れ込まれました。他に誰も乗っていなかったエレベーターの中でも下着の中に手を突っ込まれ、胸を触られました。
「殺されるかもしれない」
恐怖で抵抗などできませんでした。エレベーターから降りると、今度は多目的トイレに行くように命じられました。
「絶対にレイプされる」
そう感じた彼女は勇気を振り絞って大声で叫びました。
「痴漢です! 捕まえてください!」
その時付近にいた男性数名が二人の元に駆け寄りましたが、犯人の男は走ってその場を逃走しました。
目撃者の証言によると、被害者の少女はすぐにその場でうずくまって泣き出してしまっていたそうです。彼女はその後の調べで「エレベーターに男性と二人で乗ることができなくなりました。事件のことがフラッシュバックして...体調が悪くなることもあります」と話しています。
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後に逮捕されたのは神奈川県相模原市在住の高沢篤司(仮名、裁判当時32歳)でした。事件を起こした埼京線は仕事でも他の機会でも乗る用事はほとんどない路線です。
「仕事でたまたま池袋まで来ていて、埼京線は痴漢で有名だからやろうと思いました」
と供述しているように、はじめから痴漢をする目的で埼京線に乗っていたようです。
彼は今回の事件の10年ほど前のことですが、前科が複数ありました。そのうちの2つは性犯罪で、帰宅途中の女性をレイプしようとした強制わいせつと盗撮です。服役も経験しています。
「被害者の女の子を見つけた時、頭の中は痴漢をすることでいっぱいになっていました。事件を起こしてしまった原因は、その時々で自分の欲求や感情が抑えられない病気です。今後は病院に通います」
と、犯行の原因を病気からくるものだと主張し今後は病院に通うことを約束していました。
幼い二人子どもを抱えた妻は
情状証人として証言台に立ったのは結婚5年目になるという彼の妻でした。
「夫のしたことはとても考えられない卑劣な犯罪で、許すことはできません。見放せば楽になれると思いました。でもそうしたらまたやるかもしれないですし、産まれたばかりの子どももいます。二人で今回の事件と向き合っていきます」
二人の子どもはまだ幼く、彼女一人で働きながら育児をすることは容易ではありません。生活面でも経済的にも、夫を必要としていました。
「今回のことは本当に信じられません。許せません。二人の娘がいる父親なのに...よそのお嬢さんに対して...本当に許せません」
法廷ではこのように感情を吐露しながらも、それでも彼女は夫の保釈金を用意し、私選弁護士を手配しました。
彼女は夫が過去に犯した罪も服役していた事実も知った上で結婚しました。また何か再犯を犯さないように気をつけてはいたようです。全て裏切られる結果にはなりましたが、彼女は「夫と一緒に、被害者様とそのご家族への謝罪と弁済について考えて償っていきたいと思っています」と、今後も夫を支える意思を示していました。
彼女から見た保釈後の夫の様子は、
「仕事にも病院にも真面目に通っています。家事や育児にも積極的に参加してくれています」
ということです。
そんな夫の姿は彼女の目にはどう映っていたのでしょうか。もしも大切な人が道を踏み外した時にどうするべきなのか。彼女の取った選択が正しいのか正しくないのか、それは今はまだ誰にもわかりません。(取材・文◎鈴木孔明)