「政府が全力で取り組んでいるさなかだ。今あのような形で発信するのは不適切だ」
共産党の志位和夫委員長が26日の記者会見で、ISISによる邦人人質事件について安倍政権を批判した同党の池内さおり衆院議員に「苦言」を述べた。池内氏は湯川遥菜氏と思われる男性の死体の写真が公開された直後の25日午前1時35分、ツイッターで以下のように綴っていた。
「こんなにも許せないと心の底から思った政権はない。『ゴンゴドウダン』などと、壊れたテープレコーダーの様に繰り返し、国の内外で命を軽んじ続ける安倍政権。安倍政権の存続こそ、言語道断。本当に悲しく、やりきれない夜。眠れない」
このツイートはすぐさま「大炎上」し、池内氏に対する膨大な批判が書き込まれた。夜が明けてそれに気づいた池内氏は自分のツイートを削除したが、騒ぎはそれで収まらなかった。冒頭の志位氏の「苦言」は、この消されたツイートに向けられたものだ。
一見して党の幹部が新人議員に対して注意したかのように見える。だがそうではないというのが共産党の言い分だ。
「あれは『苦言』ではない。事実を客観的に述べたものだ。池内氏のツイートは個人の見解。削除したのも池内氏の判断。党は関係ない」
だが共産党は組織政党。この件について産経新聞がいち早く「共産党は政策など重要課題をめぐる党の『公式見解』に関して"上意下達"が徹底されているとされ、党員がそれを逸脱する発言をするのは極めて異例」と報じているように、いくら個人的見解とはいえ、ひとりの新人議員が党の見解から外れることはありえない。
「参院議員の吉良よし子と衆院議員の池内さおりは、共産党の2枚看板。そもそも2013年の参院選で、東京選挙区からの出馬をこの2人が争ったという経緯がある。"可愛い系"対"ロック系"で、この時は"可愛い系"の吉良が出馬した」
共産党関係者がこう明かしてくれた。となると、池内氏は共産党の将来がかかった大事な「宝」といえる。委員長である志位氏とはいえ、彼女を容易に処分などはできないだろう。
26日午前、池内氏はツイッターで「今の時期に昨日のようなツイートは不適切だと考え削除しました。お詫びいたします」と謝罪し、さらに「『イスラム国』人質事件は志位委員長が『彼らがやっていることは残虐非道な蛮行であり、絶対に許すわけにはいかない。強く非難する。人質の解放を強く求める。日本政府に対しては、人命最優先で解放を図るために、あらゆる手段、可能性を追求してほしい』と述べている通りです」と書き入れた。ちょうど池内氏が削除したツイートをたしなめる志位氏の会見とほぼ同じ時刻のことで、まるで示し合わせたかのようなタイミングだ。
昨年末の衆院選で21名の当選者を出した共産党は、さらなる躍進を目指している。そのための「顔」を傷つけてはいけない。また一般世論も敵にはまわせない。よって志位氏は池内氏を形式的には「苦言」を呈しながら、実質的にはなんのおとがめもないことにしたのだろうか。
教条主義を貫いてきた政党がポピュリズムに変貌するのを見た思いがした。
Written by 安積明子
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