毎度のように炎上している「TVタックル」だが、今回もまたシャレで済ますにはあまりに酷すぎる炎上案件が持ち上がった。自民党のヘイトスピーチ対策PTで座長代理を務める柴山昌彦衆議院議員が、無知をさらけ出して大暴言を吐いてしまったのだ。
問題となっているのは3月2日に放送された「TVタックル」。番組テーマは『同性婚』 について。 討論に加わった柴山議員は「同性婚を制度化すると少子化に拍車がかかる」と、LGBTや少子化問題のどちらかを少しかじった人間ならば頭が「???」でいっぱいになる持論を展開した。
●政策のマズさを誤魔化すために同性愛者をスケープゴートに
この手の「○○すると××になる」というロジックは、論理が飛躍し過ぎると "風が吹けば桶屋が理論" として失笑の対象になるが、今回の柴山議員の発言はそれですらない。なんせ "同性婚" と "少子化" がハナから繋がっておらず、どうこねくり回しても両者の間に因果関係が結べないからだ。これではいくら風が吹いても桶屋は儲からない。
柴山議員のような方のために解説させていただくが、当たり前の話だが同性婚を希望する人間は大多数が同性愛者だろう。彼ら彼女らは恋愛の対象が同性なのだから、人生のどこかで「自分の身体で子供を産む」という行為自体を諦める場合が多い。知人に縁のあった子供を里子に引き取って育てているゲイカップルがいるが、子供が欲しい場合はどうしてもそうした形にならざるを得ない。別の可能性として、何らかの手段でタネもしくはタマゴだけ借りて産んでもらう、産ませてもらうという選択肢もあるが、そちらはまだまだメジャーとは言い難いやり方だ。どちらにせよ同性婚を望む人達の多くは「結婚して子供を産む」という行為を諦めてでも、また異性婚よりも出産のハードルが高くなるのを覚悟してでも、同性のパートナーを選びたいのである。
対して少子化問題とは、異性を恋愛対象とし、結婚願望があり、出産願望もあるのに、様々な理由で子供を持てない夫婦があまりにも増え過ぎてしまったがために起きた社会問題だと言えよう。これを解決する方法は、国民が普通に生活して普通に子供を持てるような経済状況を整える事と、それに付随して育児に適した環境を整える事の2点だ。
さて、こう考えてみると自民党が少子化問題をどう捉えているか"最悪の形で"思い知れる。自民党は少子化対策でいの一番に尽力せねばならない要点を見て見ぬふりをし、それよりも同性婚を制度として認めない事で「同性愛者の内の何%かは異性と嫌々結婚して嫌々子供を作ってくれるかもしれない」とでも考えているのだ。そうでなければ「同性婚を制度化すると少子化に拍車が」なんて台詞は出て来ない。ようは同性婚どころか同性愛自体を認めていない、ないしは理解したくもないと言っているも同然で「自分達の政策のマズさを誤魔化すために同性愛者をスケープゴートにしようとしている」と言われても反論のしようがない。
現在インターネットを中心として「ヘイトスピーチだ」と非難の声が挙がっているが、今回の柴山議員の発言はどう贔屓目に見ても同性愛者に対する無理解に起因する差別発言であるし、自身が背負う責任の大きさに比べたら「無知でした」で済む話ではない。なんせ彼は自民党のヘイトスピーチ対策PTの座長代理なのである。同PTは過去に高市早苗が「ヘイトスピーチを規制して、国会周辺の反政府デモ等も出来なくしよう」と言ってのけた事が記憶に新しいが、今回の暴言はそれと並べて記憶しておくべき事案である。自民党はヘイトスピーチの意味合いをねじ曲げて、自分達に都合の悪い存在を片っ端から弾圧しようという魂胆なのだ。
これは自民党が酷いという話でもあるが、同時に「ヘイトスピーチという単語を流行らせたい一派が大失敗した証拠」とも言える。世間に馴染みのない言葉を、丁寧に説明し周知するという努力が足りな過ぎたのかもしれない。また反ヘイトを謳う側に誤解を招くような言動が多過ぎたのかもしれない。だからこそ、このように言葉の意味をねじ曲げる余地を与えてしまったのだ。 これは反ヘイトを掲げる人々が直視せねばならない現実であり、早急に対策を講じねば守りたい対象を守れないどころか、より苦しめる結果にもなり兼ねない。
本稿のテーマはヘイト論ではないので話を戻すが、世界では "LGBTの自覚のある人間" は数%程度だろうと言われている。日本でもとある調査によれば5%程度という数字が出たようだ。しかしこの問題は中々表面化しづらいため正確な数字はわからない。あくまで「おそらく20人に1人くらいは性の悩みを抱えていそうだ」というザックリした調査結果である。これを前提に考えると、日本の人口の95%は異性愛者であるとも言える。
さて、この数字を見れば少子化対策として早急に手を施さねばならない対象がどこか誰にでもわかるだろう。少子化を何とかしたいのであれば、人口の95%を占める大多数の異性愛者に向けた政策を考えねばならない。あえて悪い言い方をするが、たかだか5%しかいない同性愛者を締め上げたところで焼け石に水である。
にもかかわらず柴山議員のあの発言なのだから、自民党は少子化問題を根本的に理解出来ていないのかもしれない。これは国民にとっては、いやむしろ日本を愛しこの国が末永く続くよう願っている日本人にとっては、あまりに絶望的な結論である。現在の自民党を "愛国政権" として必死に持ち上げている連中に「自民党こそ日本人を減らし続けようと画策する巨悪ではないのか?」と聞いて回りたいところだ。
最後に余計な一言を付け加えるが、柴山議員は同性婚をテーマにするTV出演が決まった時に、事前準備として二丁目のバーにでも行っておくべきだった。そうすれば店のオカマちゃんに「アタシ達が少子化対策に何か協力できると思ってんの? 考えりゃわかるだろバカ!」とガチ説教を喰らって何かに気付けたかもしれないのに。
Written by 荒井禎雄
Photo by 柴山昌彦公式HPより
【関連記事】
●アニメ規制派は根拠なく感情論...TVタックル問題回を検証する
●オタク差別「TVタックル」が教えてくれた二次元コンテンツ規制の打開策
●ゲイの世界遺産...ハッテン場発祥の地「竹の家旅館」探訪記