性をめぐる議論が長野県で再燃している。長野県は唯一、都道府県単位での淫行処罰期待がない県であり、条例制定をめぐって、県知事が議論を進めたい考えを示しているからだ。しかし、反対の声は、保守層にも根強い。長野県で新聞記者をしていた経験からすると、子どもの健全育成は条例制定ではなく、県民運動で取り組むという姿勢があるからだ。
各都道府県の青少年健全育成条例等では、18歳未満との淫らな性行為、つまり「淫行」を処罰する規定が盛り込まれている。しかし、長野県ではその規定がない。ただし、2007年10月、東御市は青少年健全育成条例を施行した。第24条で淫行を禁止し、違反すると30万円以下の罰金となる。
東御市の議論では「(現行の児童福祉法では)一般的に他人をもって児童に淫行させる行為が対象だ。したがって、暴行や脅迫、対償の供与を伴わない青少年に対するみだらな性行為は、現行の法令では対処できない」などと市側は説明していた。「暴行や脅迫、対償の供与を伴わない青少年に対するみだらな性行為」を、18歳未満すべてに適用させることの是非は十分な議論がないように思う。
また、こうも説明していた。
「青少年は、心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に十分に安定しない発達段階であるため、性行為によって精神的な痛手を受けやすく、その痛手からの回復が困難であり、人格形成に大きな障害となるおそれもある。妊娠中絶や性感染症など、将来にわたる青少年の心と体のダメージははかり知れず、このような性被害から青少年を保護するため、その育成を阻害するおそれのあるものとして、社会通年上非難を受けるべき性行為について禁じるものである」
心身の未成熟などを理由とするならば、なぜ、18歳という年齢が「淫行」の基準になるのかははっきりしないし、人格形成に大きな障害になる可能性があるとなれば、条例制定前と後での比較調査が必要だが、そうした検証はしないということか。さらに妊娠中絶や性感染症は18歳未満がより深刻という実証データがあるのか。曖昧さが議会でも指摘されていた。
反対討論は「市の説明では、結婚を前提としていないものはみだらな性行為とみなすとの解釈をするとのことで、自由な交際への介入など、人権侵害の危険性があります。人間の心、内心は法律で規定してはならない。それが、思想、良心、内心の自由を保障した憲法19条の意味するところではないでしょうか」との主張があった。
一方、賛成討論でも「第24条、第25条については、地区懇談会に案として出されておらず、議会に5月に入ってから初めて提出されています。これでは住民や議会軽視と受けとめられても仕方がないと、私も考えます。施行に当たり、個人のプライバシーを守ること、拡大解釈をしないことに特に留意をされることを望みます」とあり、急に市議会で案として示され、十分な議論がなかったことが指摘されていた。
この東御市の議論は長野県初の淫行処罰を盛り込んだ条例だったために、マスコミでも注目されていた。にもかかわらず、淫行処罰について、十分な議論があったという印象は議事録からは感じられない。今回の長野県の淫行処罰規定の議論では、丁寧な議論をしてほしい。
Written by 渋井哲也
Photo by Jordy Meow
【関連記事】