誰も解説できぬ"首吊り士"の思惑
10月30日、警視庁高尾署の捜査員がわずか13平米の部屋で見たものは、クーラーボックスに収納された9つの生首だった。翌31日、警視庁捜査一課は死体遺棄容疑で元風俗スカウトマンの白石隆浩容疑者(27)を逮捕。白石容疑者は8月下旬以降、みずからが開設した「首吊り士」など複数のツイッターアカウントで自殺志願者と接触し、わずか2ヵ月間で計9人を殺害したことを自供した。
ある捜査関係者が打ち明ける。
「逮捕後、白石容疑者は殺害の動機を金銭目的と話していましたが、そう単純な話ではない。1人目を殺害した直後に〝覚醒〟したのでしょう。殺害行為そのものへの欲求、そして屍体自体に対する偏愛が沸々と芽生えたのです。実際、彼の携帯電話には殺害シーンを収めた画像がたくさん残されていました」
全国紙記者が重い口を開く。
「遺族感情を考えると報じることができませんが、被害者の中の唯一の男性が陵辱されたというのです。それについて白石容疑者は『遺体に男も女も関係ないんです』と供述してるようです」
だが、白石容疑者は〝真の動機〟をみずからの口で語っていない。逮捕数日後、オウム真理教事件の菊地直子氏を担当した弁護士が代理人に付くことになり、それ以後、黙秘を続けることが多くなったというのだ。
降っては湧いて出る「犯人の知り合い」
一方で、メディアの報道は収まる様子がない。事件発生直後から白石の知人友人を探すツールとして、ツイッターが〝鉄火場〟と化した。
「ツイッター上で『白石を知っている』という書き込みを発見するや、各メディアが一斉に群がり、取材を申し込むという現象が起きました。そのため、各テレビ局はツイッター専門部隊を設けたほど。事件発生直後のメディア・スクラムは凄まじく、白石容疑者と会う約束をしていたという千葉県在住の介護士の女性は連日、深夜3時過ぎまでテレビカメラに囲まれていた。結局、その子はストレスが溜まり、心のバランスを崩してしまったのです」(週刊誌記者)
各メディアには「白石を知っている」という情報提供が相次いだ。
「新宿2丁目のオカマバー『R』の店長が『被害者がうちの店の常連だった』というガセネタを流してはメディア関係者を店に呼び、ボッタクッていた。テレ朝なんて5万円を払って結局、信憑性のある収穫はゼロだった。その店は、メディアから総スカンを食らっていますよ。
さらに許せないのは、あるメディアの不正行為。ある女性週刊誌が不正に紙(住民票や戸籍謄本)を入手していたというのです。実際、彼らは絶対的に辿り着くことができない白石容疑者の妹の自宅を割り出し、逮捕3日後にはインターホンを鳴らしていました。そのせいで家族は怯え、弁護士に相談。不正に個人情報を入手された経緯を役所に問い合わせるという動きもあるようです」(同前)
報道が加熱する中、事件現場では多くの真偽不明な情報が記者の間で飛び交った。「人身売買説」と「複数犯説」という荒唐無稽な〝筋読み〟が出回るのは、常人の理解が追いつかない凶悪犯罪である証左だ。
新宿を根城にするスカウトマンが語る。
「白石が所属していたスカウト会社が闇社会と通じているという噂があり、その人脈の延長線上に人身売買で逮捕された者がいるという話があった。それが広まり、『人身売買説』が広がっていった」
今年5月末に倉庫物流会社を退社後、最初の殺人を犯すまでの空白の3ヵ月間、白石容疑者は何を考えていたのか。その謎を解く鍵を握るのは、忽然と姿を消した白石容疑者の父である。前代未聞の凶悪事件から2週間――。各メディアは父の姿を捉えようと虎視眈々とチャンスを狙っている。
取材・文◎林田 誠
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