毎日することがない、行くところがない、友達もいない......「コールセンター」に自分の居場所を尋ねた男

2018年08月09日 JAF コールセンター 偽計業務妨害 裁判傍聴 迷惑電話 鈴木孔明

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 社団法人日本自動車連盟(通称JAF)のコールセンターでは、一人の男から毎日のようにかかってくる迷惑電話に困り果てていました。

「自動車の事故や故障の対応が命に関わることもあります。事故のショックで話せなくなり無言の方もいます。それでも真摯に対応しなければなりません。犯人は非通知でかけてきていましたが、それでも出ないわけにはいきません。犯人の迷惑電話の対応には苦慮していました」

 とJAFの職員は供述しています。

 JAFは警察に被害届を提出し、偽計業務妨害の罪で逮捕されたのは北海道在住の藤田昭仁(仮名、裁判当時58歳)でした。彼は約5ヶ月間で判明しているだけでも27,594回もJAFに迷惑電話をかけていました。

――もしもし、お車の故障ですか?」
「......人間の故障だよ」

 こんな電話が非通知で毎日何十回もかかってきていたのです。
「助けてくれ」
「殺してくれ」
 などと言って切られることもよくあったそうです。無言のままの時もありました。


 5ヶ月で27,000回以上、単純計算すると1日に180回以上電話をしています。24時間かけ続けたとしても、10分に1回以上のペースです。彼をこんな異常な行動に走らせた原因は『寂しさ』でした。

「自分の部屋に誰もいない寂しさに耐えられませんでした。母も亡くなって仕事も辞めていて、ただ誰かの声が聞きたかったです」

 JAFなら24時間いつ電話をかけても必ず繋がります。そして丁寧に対応してくれます。逆にいうと、JAF以外には彼の話を聞いてくれる人は誰もいませんでした。

「電話をするたびに、一瞬だけど寂しさは紛れました」

 寂しさが紛れるのはあくまで一瞬だけでした。電話を切ってしまえば、誰も自分と関わる人間がいないという孤独に向き合わなくてはいけません。それは耐えられないことだったようです。電話を切ってまたすぐさま電話をかけました。
 ただ一瞬寂しさを紛らわせても何の意味もないこと、何度も電話をしても孤独感で餓えている心が満たされることはないということ、それは彼にもわかっていたはずです。しかし、現実に彼の孤独感を埋めてくれる人は何処にもいませんでした。彼はもう電話で刹那的にでも寂しさを紛らわせること以外、考えられなくなっていました。


 藤田は、大学を卒業してからずっと母と同居しながら郵便局に勤めていました。その母が亡くなり、55歳で郵便局を退職した時、彼に残されているものは何もありませんでした。
 毎日、何もすることはありません。やらなければいけないこともありません。誰か会いに行けるような友人などもいませんでした。起きてから食事をして眠るだけ、何の楽しみもない毎日がただ過ぎ去っていくだけです。そんな日々の中で、少しずつ彼の心は蝕まれ壊れていってしまったのだと思います。
 27,594回、この回数に彼の孤独感がどれだけ深いものだったかうかがい知ることが出来るような気がします。


 逮捕後、彼は精神科医の診断を受けました。重度のうつ病、双極性障害という診断結果でした。
 今後は施設に入院しながら治療を受け、退院後はケースワーカーや役所の支援を受けながら生活をしていくようです。

 今、一人暮らしをしている高齢者の数は600万人を超え、年間の孤独死は30,000件以上にのぼります。今回取り上げた裁判の被告人はまだ58歳で高齢者ではありませんが、彼のように人との繋がりを絶たれている状況にある人は多くいると思われます。
 以前テレビでよく聞いた『絆』という言葉は、もうこの社会からなくなりつつあるものなのかもしれません。(取材・文◎鈴木孔明)

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