「調査兵団でも働けるだけマシ」就職難の中国で人気『進撃の巨人』にやっかみの声

2013年09月05日 アニメ ネット 中国 漫画 進撃の巨人

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 アニメ『進撃の巨人』が中華圏で爆発的人気を呼んでいる。原作は2009年から講談社の少年マガジンに掲載中の同名コミックスで、8月には最新11巻が1週間で76.4万部を売り上げてオリコントップとなり話題を呼んだ。台湾でも2011年から翻訳版が出版されている。

 もともとあった人気が、今年4月にアニメの放映が始まるとさらにブレークした。中国、台湾、香港でもテレビやネットで放映されており、いまや好きなキャラ推し、コスプレはもちろん、パロディ、二次創作が花盛りとなっているのだ。そして、この作品で他にないほど熱を帯びたのがストーリーの"深読み"だった。

 "深読み"のなかでとくに注目を浴びたものは「日本の軍国主義復活を象徴した漫画だ」というもの。最近は、ことあるごとに「軍国主義の復活」云々という批判が出てくるので、そのこと自体にはもはや独創性など感じない。ただ、台湾のテレビ局「中天電視」の番組では、さらに想像力を逞しくして物語と東アジアのいまとを結び付けた妄想を展開してみせた。

 それによれば評論家のなかには、物語に登場する超大型巨人、鎧の巨人、女形の巨人という三大巨人を、日本を取り囲む東アジアの主要なリーダーに重ね合わせる人もいるという。超大型巨人は、急成長を遂げた中国の習近平国家主席。鎧の巨人は破壊力のある中長距離弾道ミサイルを有する北朝鮮の金正恩第一書記。そして、女形の巨人は東アジアで唯一、女性として国家の頂点に立つ韓国の朴槿恵大統領だというのだ。

 一方香港では、物語の世界を自分たち自身になぞらえた"深読み"もされている。

 物語のなかの巨人に脅かされる人類を、英国から中国への返還後、一国二制度による自由を享受していけるはずが、次第に中国に攻め落とされつつある香港になぞらえた読み方だ。地元に閉じこもり、ある意味閉鎖的な香港人が、壁の内側で安穏としてきた物語のなかの人類にそっくりだというのだ。

 ネットでは、そうした見方をわかりやすく表現したイラストを見ることができる。たとえば、『進撃の巨人』のポスターのパロディ。高い壁の外から巨人ではなく、巨大なイナゴがぬうっと頭を出して壁の内側を狙っているというイラスト。香港ではしばしば中国、あるいは中国人の象徴するものとして「イナゴ」が使われている。そしてイナゴは、大量発生すると空を真っ黒に染めて飛来し、広大な農地の作物を一瞬で食い尽くしてしまう害虫として恐れられている生き物なのだ。

 別のイラストでは、香港の紋章をつけた塔を中心に取り囲むように三重の壁が描かれている。壁の名は外側から順に「文明道徳」「一国二制度」「人権法治」。そしてその3つの壁の外から、真っ赤な体に黄色い星を5つつけた巨人――つまり中国、あるいは中国人――が襲ってくる......。

 一方、中国では政治を絡めた深読みよりも登場人物たちの悲惨な青春を、現実の自分たちの生活や中国の現実と結び付けて考えたりしているようだ。中国版ツイッターともいわえる「微博」では、こんな発言をみかけた。

「現代社会のオタクがひきこもって現状に甘んじている状態を描いていて、巨人は間違いなくお見合いや就職、住宅の購入といった現実的な問題を迫られることを示しているんだろう」

「卒業したらすぐに就業の機会があるなんて、ほんとにいいよねえ」

 ちなみに、主人公たちは軍団の訓練課程を終えて希望する兵団に配属されたばかり。主人公が選んだのは、最も身の危険が多い調査兵団。巨人に食われるかもしれない命がけの仕事でも、ないよりはマシってことだろうか?

 アニメ『進撃の巨人』の放送は9月で終了するが、実写映画の製作があるとかないとか......。中華圏のファンたちも日本のファン同様、今後の展開はどうなるか、固唾をのんで見守っている。



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Written by ゆーずP

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