ランチはラーメンでも食べて、ゆっくりコーヒーを飲みながら読書。最後にはデザートでも...。
なんて、忙しい現代日本でそんな悠長に過ごしていたら、いつのまにか後輩にさえも出世街道の先を行かれてしまうかもしれません。
ましてや、江戸っ子気質が今もちらほら残る東京。「そんなにゆったりしてたら今日に置いていかれちまうぞ!」てなもんです。
そんな精神から誕生したわけではありませんが、ラーメンとコーヒーとデザートを一緒に楽しめる「珍」な店が存在します。
「コーヒーを置いているラーメン屋」や「ラーメンが食べられるコーヒー屋」ならば探せば見つかるでしょう。今回やって来たのは、ラーメンとコーヒーとデザートをもっと一緒に楽しめる店なのです。
京成線のお花茶屋駅から住宅街を歩いて数分。
古びた看板が見えてきます。
飛び出し注意を伝え過ぎる看板
お店はその路地を入るとすぐ。
亜呂摩
一見、街の老舗喫茶店のような店構えですが、ここがラーメンとコーヒーとデザートを一緒に楽しめる場所であり、珍スポット好きの間では聖地とも言われています。
入店して看板メニューを注文。
数分すると芳ばしいコーヒーの香りが漂いはじめ、少し遅れて塩気のある香りも混ざってきます。
やがて温和そうな顔の店主が
「はい、イケメンに出来たよ」
と出してくるのがこちら。
コーヒーラーメン
こちらが亜呂摩の看板メニューであるコーヒーラーメン。
それ以外の情報が錯綜し過ぎて、イケメンかどうかを考える余裕などありません。
はじめての食べ物を前に戸惑っていると、店主が「簡単に説明しましょうか?」と申し出てくれました。
はい、是非とも。でないと受け止めきれません。
「お願いします」
と私。
すると店主は
「コーヒに味をつけたやつです」
私が呆気にとられているうちに店主は踵を返して厨房へ戻って行きました。
立ち合いで白鵬に張り手やかちあげを食らって、気づいたら負けていたのって、こんな状態なんだろうと思います。
気を取り直してコーヒー色のスープを一口。
たしかに「コーヒに味をつけたやつ味」です。
コーヒーの苦味と、ラーメンに寄せようとしている塩気。
ピカソの絵を見ても名画だと直感出来ない私には、このコーヒーと塩気の混ざり方がハーモニーなのか不協和音なのかを判断するアンテナがありません。
確かめるように二口、三口。
次に具です。
目はゆで卵で黒目はコーヒー豆、鼻はチーズで口はサラミ、サラミの下にはバナナの輪切りが隠れています。
そして頬部分はナルトの下にキウイがあり、額の部分にはバニラアイスの下にベーコンが敷かれているのです。
どこからどの順番に食べても、舌で感じている味と目で見ているもの、そして脳で感じている感覚がズレてきます。
乗り物の中でスマホを見たり読書をしたりすると乗り物酔いになることがありますが、その原因の一つは、目で見えている状況と三半規管が感じている揺れの刺激に齟齬が起こるためだと言われています。
亜呂摩のコーヒーラーメンの具とまさに同じ状況です。
そして麺。
コーヒーメン
ご覧の通り、麺にまでコーヒーが練りこんであります。
これによって香ばしさが鼻へと抜けて、日本蕎麦をすすっているような感覚にもなります。
ここまで来ると増大したエントロピーを脳が整理しはじめ、なんとなくコーヒーラーメンの実態を味として捉えられるようになってきます。
しかしコーヒーラーメンを甘く見てはいけません。
いや、甘くなっているのです。額部分にあったバニラアイスが温かいスープによってとけてきています。
尻尾を掴めそうだったコーヒーラーメンの味が、舌先を抜けて彼岸へ逃げていくのです。
加速度的に甘くなっていくスープ。
その心づもりで食べ進めますが、途中に突然現れるベーコンやサラミの味。
甘さ・苦さ・辛さが上下左右・タテヨコナナメ・東西南北・現在過去未来と、全方位から押し寄せ続けるのです。
まさに味のカオス。
しかし確かに、ラーメンとコーヒーとデザートを一緒に楽しめる究極のメニューであることは間違いありません。
美味いのか不味いのかは、ぜひご自身の舌でお確かめください。そこには亜呂摩が40年以上続く理由、そしてコーヒーラーメンが10年以上も看板メニューとして君臨している理由が見えてくるかもしれません。
文◎Mr.tsubaking
⬛︎亜呂摩
東京都葛飾区宝町2-19-16
03-3694-9156
11:00~21:00
火曜定休、日曜不定休
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