僕は、食べるのが好きなのですが、特に好きなジャンルなのは洋食です。洋食屋は大体、外れがないものです。その店ごとの味があります。
さて、今回僕が入った店も外観が昭和の雰囲気を漂わせており、好きなイメージです。表に、「某テレビ番組がロケに来ました」との断り書きが。という事はそこそこ美味いのでしょう。少なくとも不味いという事はないと踏みました。
洋食屋のメニューと言えばハンバーグやビーフシチュー、オムライス、コロッケ定食などです。この店のメニューの値段は650円から800円くらいまででした。まあそんなところでしょう。値段もまずまずなので、ハンバーグ定食を頼む気持ちになっていました。すると、
「ステーキ定食 2000円」
のメニューが目に入りました。
二度見しました。200円でも1200円でもないよな、と。この「町の定食屋」で2000円のメニューは強気です。
どうしようかなー。無難にハンバーグで行くか、意外性のステーキ定食で行くか。でも即断しました。
「ステーキ定食ください」
一瞬間があって、ホールの人が「カウンターのお兄さん、ステーキ定食」とご主人に伝えます。ご主人が無言になりました。僕はカウンターに座っていたので調理場がよく見えます。雰囲気が微妙です。
「あれ? 頼んではいけなかった? でもメニューにあるし」と自分に「大丈夫、悪い事はしていない」と言い聞かせました。
するとご主人がエプロンを外し、裏口から出ていくではありませんか。主が消えた調理場で、奥様らしき女性とそのお母様らしき女性が手持無沙汰になっています。その合間に湯豆腐、さつまいもが出てきます。漬物、お味噌汁、ご飯付きの定食なのです。親切です。
それらを食べながら待っていると、ご主人が裏口を開けて帰ってきました。その間10分ほどでしたでしょうか。
ご主人が「すみません。200円プラスでもいいですか」と聞くので「全然いいですよ」と答えます。なぜ200円値上がりしたのかよく分かりませんが、とにかく2000円のステーキを食べなければいけないという意識にかられていたのです。
フライパンでステーキを焼く音が聞こえてきます。もうすぐです。
「すみませーん」というご主人の声とともにカウンターに置かれました、ステーキが。
鉄板に乗っているものの、ジュージューいうほど熱そうではないのでなるだけ早く食べた方が良いでしょう。
薄い肉です。ナイフで切って口に運びます。柔らかい。脂身がある。で、ソースが結構な量でかけられていたのですが、他の料理にも応用しているのであろうデミグラスソース。チーズを混ぜているのか、しっかり目の味です。あと、ガーリックの味がしました。
肉の焼き方はウェルダンでしたね。大体、洋食屋で「ミディアムレアで」とか頼むこと自体、野暮な訳です。これでOKです。
その間、どんどんお客さんが入ってきます。時刻は昼の12時になろうとしていました。良かった、早めに頼んでおいて。どうやらこのメニューは時間を見て頼んだ方がよさそうです。
「人が作ってくれたものに不味いモノは無し」
という信念が僕にはありますし、事実美味しかったんですよ。ただ2000円。正確には2200円というコスパを考えるとどうでしょうか。という問題だけです。
でも漬物、お味噌汁を飲んで口の中をさっばりさせてみると十分、お腹も膨れました。財布からお金を取り出します。
女性がご主人に「カウンターのお兄さん、2000円?」と小声で尋ねます。ご主人も小声で「2200円」と答えます。僕は最初からそのつもりで2200円用意していました。勘定を済ませて、「美味しかったです。ご馳走様でした」と声をかけてドアを開けます。後ろから「有り難うございましたー」というご主人の声が聞こえました。
店を出て10mくらい歩いたところに「肉の問屋●●屋」という看板が目に入りました。なぜ店主が慌てて出て行ってかが分かりました。無理させてごめんなさい。今後は1000円以下のメニューを頼みます。
文◎久田将義