コンポーザーの佐藤氏
前編はこちら
http://tablo.jp/culture/news002890.html
ストリップでのお姉さんとの「いい話」
――...で、ストリップはどうでした?
佐藤:その日は確か、SMの日だったんですけど、半分引退したような人も出ていて、最後に写真を撮れるときにうちの市丸っていう子が「俺、お姉さんがいい!」って指名した人が、その半分引退したおばちゃんで、相手も「ええ!? わたし!?」みたいになって。で、しばらくして川口のストリップに行ったら、偶然にもその人が巡業で出ていて、お互い「あーーーー!!!」みたいな(笑)。「わたしの写真がいいなんていう人、他にいないもの」っておばちゃんも喜んで覚えてくれていて。
――めちゃくちゃいい話じゃないですか(笑)。
佐藤:その市丸はもともとすごく実家が好きで、テレビのレコーダーに1日のテレビ番組を全部予約して、夜にそれを別に見ないで全部消すっていう日課があったんですよ(笑)。
――全然意味わかんないですね(笑)。
佐藤:だから家に帰らないとたいへんなことになるんですよ、予約もできないし、予約も消せないし(笑)。だから本人も、「もしお母さんが僕を施設に入れても、電車を全部覚えているから家に帰る」って言っていて。
自閉の子なんで、駅名とか時刻表も全部頭に入っているんですよ、何時のどれに乗れば何時にどこに着くっていうのを全て把握していて。「絶対家から出ないから」なんて言ってたのに、いまにじ屋の近くで一人暮らししてるんですけど(笑)。お母さんがびっくりしちゃって。
――変化するきっかけはあったんですか?
佐藤:それがストリップなんですよね(笑)。まだ彼が実家に住んでいたころに、にじ屋のみんなでストリップに行こうっていうことになって、当日はたまたま彼が休みの日だったんですよ。
だから、お父さんに「ストリップに行く」って言えなかったらしくて、集合時間になってもこないから心配して家に電話かけたら、「今お父さんといて......」って半泣きになっていて、それまで彼は"友だちと約束をして出かける"っていうことが一度もなかった人生で、今まではどこかに出かけるときも、親と施設の人が連絡帳でやりとりをしていたんですよ。
でも今回はにじ屋のメンバーでストリップに行く、っていう親が知らないことをするわけで、パニックになっていて、結局来れなかったんですよ。そしたら翌日、「次は絶対行きます......」って言い出して、そこから急に家から外出をするようになったんですよね。それまではみんなで映画にも行ったりしても、彼だけは「行かない」ってさっさと家に帰ってたんですけど。
――ストリップは強いですね(笑)。でも良いきっかけになったんでしょうね。
佐藤:お正月に実家に帰るときも、「3日には帰ってくるから!」って報告をして、いつの間にか実家とひとりぐらしの家にいたい気持ちが逆になっちゃって。でもお母さんは喜んでいて、「この子が外から家に帰ってきて、(にじ屋に)早く戻りたいって言うようになるなんて」って感謝の手紙をもらってしまいました。自分が若い時に楽しかったから、同じように、青春を送らせたいっていう気持ちのある親御さんなんですよね。
他のお母さんの中には、とっくに成人している子にも、「あんたは障害があるんだからお酒なんて飲めない」って言う人もいて、それをみんな信じ込んでいて。うちに遊びにきた時に、「1本だったらお母さんにバレないかな」なんて言うやつもいるもんね。正直、かわいいなって思うけど、そういうのを繰り返していけばやっぱり仲間って必要ですからね。
――僕らも学生時代そういうことしていましたからね、親が知らないことってワクワクしますからね。それが青春ですよね。
佐藤:親が目くじらを立てるようなことをしなくちゃいけないんだけど。
――その場所を提供なさっているっていうことですもんね。
佐藤:それをしたいんですよね。一般的な作業所っていうのは「通ってくる子を来たときと同じ状態にして家に返す」っていうのを一番大事にしているんですよ。安心、安全が一番、挑戦や新しいことは絶対にさせない、っていう。
――ハレとケってありますけど、お祭り的なことは必要ですよね。確かに、僕らも高校時代にこっそりストリップとか行きましたもんね(笑)。
佐藤:そういうことですよね、単純に。だから、それを親御さんが思い出してくれればいいんですよね、あんたもしてきた道でしょ!って。
――いやぁ、ストリップの話はほっこりしますね。
佐藤:また出会うっていうのがちょっといい話ですよね(笑)。
――人間的でこういう話はすごく好きですね。これを非難する人がいたら、ちょっとおかしいなって気持ちですよ。
実家好きだった市丸さん
「相模原事件」施設に夢なんてないことを、職員は知っているはず
佐藤:彼ら「にじ屋」に来る前にいた作業所の人たちの名前を全然覚えていないんですよ。オグラっていう子なんかは、10年も施設にいたのに同室だった人の名前すらひとりも出てこないんですよ、そんなことあります(笑)!?
――いやいやいや、ないですよね(笑)。
佐藤:しかも聞くところによると、彼は学生自体に生徒会長をやっていてマラソン大会でもいい順位をとっていたのに、それも全部覚えていないんですよ。ふざけて言ってるとかじゃなく、本当に覚えていないんですよ。それは衝撃でしたね。
――興味がなかったんでしょうか?
佐藤:さっき話したように、優秀だったから一般企業に就職したんですけど、3年ジンクスでやめて、精神的に不安定になって、親が手に負えなくなって施設に入ったんですよ。長期間そこにいて、薬漬けにされちゃってボケーっとして、さすがに親御さんが心配をして、「にじ屋」に入れたいってうちと繋がったんですよ。最初にうちにきた時なんて、まっすぐ歩けなくて、歩こうとすると横に動いちゃうんですよ。それでもマラソンが早かったって言うんだから、びっくりですよ。今はもうまっすぐ歩けますけど。
――薬ですかね。相模原の事件のあとに、にじ屋の機関紙で「施設にいても夢があったって書かれているけど、施設に夢なんてなかった」って書いている人がいましたけど、これが現実なのでしょうかね...。
佐藤:施設は本当に大変ですよ。廃人には確実になるし、自由に外に出られると思ったら大間違いですし。だから、相模原の事件のあとの報道が「施設にいても夢があった」なんていうものだったのが余計に闇を感じたというか。でもね、親は邪魔だから施設にいてほしいわけですよ、だから親自身は施設を悪く言えないんです。
でも夢なんてないですよ、薬でぼーっとさせられて、同室の人の名前すら覚えていない毎日に「夢があった」なんて言われてもね。あるわけないですよ。その現実を現場の人は知っているはずなのに、職員なんてみんな知っているはずですよ。でもどこもそれを言わなかった。うちだけですよ、あんな反発記事を出したのは。...だからうちは嫌われるんでしょうね。
――そうですよね、同室の人の名前も覚えていない毎日...。
佐藤:だって毎日が同じなんですよ。朝起きる時間も決められて、お風呂の日も決められて、献立も全部決まっていて、しかも夕ご飯なんて4時とかですよ。
――おやつの時間ですよね、考えると、それはちょっとひどいですよね。
佐藤:まあ頑張っている施設もあるけれど、...でも頑張っている施設もあるからって、「施設にいても夢がある」なんていうのに反発しないでいるとちょっとまずいですよ。
――施設を攻撃する=障害者を攻撃するっていう雰囲気はあるかもしれないですよね。
佐藤:そうなんですよ、本人じゃなくてまわりの人への意見なのに。施設に入れた親が責められるのが嫌だから。
――「そんなところに入れた親が悪い」ってなっちゃいますもんね。
佐藤:そうですそうです、でも実際親が面倒を見れないから入れたんですよ。親戚がとにかく施設にいれたがるんですよ。親が死ぬと自分が面倒を見たくないから、預かってくれる施設は死守しておきたいって。
――話を聞いていると、現代の姥捨山的な感じですよね。よくないな、そういうのは......。実態はあまり出てこないですから。
佐藤:だから、相模原の事件で、これで施設の実態が出るかと思ったら、全然出てこない。
――施設のほうには目がいかないですよね。隔離されているような山奥にあったりしますからね。
殺されてたまるか
佐藤:「にじ屋」は住宅街にあるんですけど、うちのメンバーが歩いていると近所の人がみんな「市丸くん〜」なんて声をかけてくれて。障害者の人は、名前を覚えてもらうっていうのは大事ですよ。そうしたら相模原みたいなあんな事件が起きたときに、もっと一緒に怒ってくれると思うんです。だからどんどんみんなには前に出て、名前を覚えてもらってほしいです。
よくツイッターで、うちのメンバーの様子を写真にとって名前を書いてアップしているんだけど、「今日の市丸はTシャツが後ろ前でした」とか。そうすると人権問題だとかプライバシーがとか言われて。でも文句を言ってきた団体の機関紙を見たら、「クリスマス会をやりました、とても楽しかったです」っていう見出しについていた写真が誰も笑ってないんですよ。
そういうのは本当にダメですよ、だからこっちはみんながいい顔をしている瞬間を伝えて、発信をして名前を覚えてもらったほうが絶対にいい。攻撃は最大の防御じゃないですけど、出て行ったほうが強いですよ。こっちは相模原以降は「殺されてたまるか!」までギリギリに来ちゃってるから。
――でも名前っていうのは大事ですよね。対応も距離感も違いますもんね。
佐藤:あんまり道徳的なことは言わないように、と思っているんですけど。素顔が見えることはやっぱりいいですよね。邪推やかっこつけがないだけ楽しいですよ。それなのに、楽しみが必要ないって思われていたり、楽しみに出会えないっていうのが問題ですよね。
――楽しみたい気持ちって誰にでもありますからね。お酒であろうが、ストリップにしようが。これを機会に、スーパー猛毒ちんどんのライブも見てみたいと思います。
佐藤:「実話ナックルズ」をずっと読んでいたので、ホンモノの久田さんに会えてすごく嬉しいです(笑)。―終―
Photo:NaokiTajima
聞き手◎久田将義
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