「生まれが京都の劇場で...」アングラ偉人列伝:最後のストリップ芸人~松本格子戸(45?歳)

2013年12月13日 アングラ偉人列伝 芸人

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 大して明るい展望が開けている訳でもないのに、つまらない同調圧力ばかり強まる現代の日本。他人の声を気にして、目立たぬよう、少数派にならぬよう、Twitterが炎上しないよう......ビクビク怯えて画一化された選択肢を選ぶだけの人生......。

 そんな息詰まった日本だからこそ、あえて日陰者(アンダーグラウンドの住人) の生き様に注目してはどうだろう? 他人の声を気にしてる余裕などなく、目立ちたくなくても嫌でも目立ってしまい、挙句の果てに常にマイノリティ。もはや感覚がマヒしてTwitterが炎上しようと住居が文字通り炎上してホームレスになろうとお構いなし。

 このような 「社会の真ん中は歩けなかったけど好き勝手に生きている方々」 をお呼びし、読者の皆さんに生きるヒントを提示しようという実にハートウォーミングな連載企画・アングラ偉人列伝。記念すべき第1回目は、「日本最後のストリップ劇場芸人」 とも呼ばれる、松本格子戸氏にご登場願います。

ーーまずご職業からお伺いしたいのですが、格子戸さんは芸人の他に俳優もされてますよね? あと聞く所によると声の仕事をすることもあるとか。

「はい、つい先日まで全国の吉○家に私の声が響いておりました。牛丼並盛り280円!と。それに昔みちのくプロレスのリングアナをやってた事もあるんです」

ーーえ? それは初耳でした。いつ頃のみちプロですか?

「東北で旗揚げした最初期の頃ですよ。スタッフだけではなく選手も足りていなくて、当時所属していた劇団のツテで、ある人間を "レスラー役の役者" という話で紹介しました。そしたら彼がみるみる成長しまして。 最初は細かったのに根がマジメなんでしょうね、会う度にムクムク大きくなって、気が付けばアメリカの大きな団体で活躍するは、馬場さんにも気に入られるは、大出世を遂げました。そういう細かい話なら色々とあるんですが、私自身の肩書きと言われたら芸人でしょうなあ」

ーー芸人とは言っても、昔懐かしい劇場でお姉さん達の呼び込みをするとか、そういうタイプのお仕事が多いですよね?

「はい、自分でもイベントを企画・主催させて頂いておりますし、とにかく何十年も劇場でのショーを見続けて来ましたからね」

ーー失礼ですけど、格子戸さんはまだ40代半ばですよね? その年齢で格子戸さんほど昭和の劇場の事情にまで精通している方って他にいないんじゃないですか? 何歳からその道に入られたのでしょう?

「あれ? 知りませんか? 私は生まれが京都のストリップ劇場なんですよ」

ーーどういうことでしょう?

「私のお母ちゃんがストリッパーで、18の時に私を身ごもりまして。父親は誰か知りませんが。それでお腹も大きくなってそろそろ産まれるという時に、京都のデラックス東寺という老舗の劇場で10日間公演を企画して貰ったそうなんです。日付も覚えております。 昭和42年の11月21日から11月30日までの10日間。ようはね、そこで私がお母ちゃんから出て来る生出産ショーをやろうということだったんです。デラックス東寺は、もうかれこれ60年も続く古い劇場なんですが、そこに通う常連のお客さんらも二度と見れんショーや! と連日詰めかけ......たのはいいものの、母体が若すぎたのか私が中々出て来ない。いつ産まれてもいいように、いや、商売を考えたら10日間公演のケツの方、出来れば千秋楽で産まれてくれるように、出産予定日にドンピシャで合わせて組んだのですが、私が産まれたのは12月1日の午前4時でした。折しも10日間の出産ショー公演が終わった数時間後に産まれよったんです。ずいぶん長いこと愚痴られましたよ。お前が中々出て来ないせいでお母ちゃん恥かいた! と。こっちからしたら、このオカンなに言うとんねんっていう。それやったら欲かかずに連続公演の真ん中辺に予定日を合わせたらええやんか」

ーー最終日をピンポイントで狙ったらそうなりますよね。では公演中は結局無事に踊り終えて、楽屋で破水してしまった感じなんですね。

「そうそう。ストリップ劇場の楽屋に産婆さんが駆けつけてね。舞台にかぶり付きで見てるオッサンらが、ふったら出て来るんちゃうか? なんて言うとったらしいですが、こればっかりはどうにもなりません。よく舞台で死ねたら本望やなんていう芸人さんがおりますが、私の場合はもう一歩で舞台で産まれるところやった」

ーー小さい頃はお母さんが出演する劇場について回ってたんですか?

「ついて回ってたどころか、そこが遊び場でしたし、お母ちゃんからすれば子育てする場所が劇場の楽屋しかなかったんです。日本中の小屋を10日周期くらいで回ってましたから、楽屋が住居みたいなもんなんです。周りには裸のお姉さんや身体中にキレイな絵が描いてあるお兄さんばっかりでね。それと劇場の楽屋にポニーとか大型犬とかおるんです。それとよう遊んでましたわ。ポニーに跨ったりして。まあウチのお母ちゃんが獣姦ショーで使う相方なんですけど」

ーーえ? 母親が舞台で絡んでた馬や犬?

「そうですよ。楽屋にね、ウチのお母ちゃんの名前と、なんでか知りませんがタイガー号様って書いてあるんですよ。ポニーでも犬でも、なんでもタイガー号て札がかかってる。ようは劇場の人間が獣姦用の動物に一々名前付けるのが面倒やったんでしょうな。何科の動物とか関係なしに、とにかくタイガー号。馬と犬しかおらんのに誰がタイガーや」

ーーでも格子戸さんはそこから自らも芸人になった訳ですから、言ってみればそのポニーや犬は兄さんじゃないですか。タイガー兄さん。

「ああそうや、先輩やからタイガー兄さんやらタイガー師匠やらですわ(笑)。ヘタしたら父親もタイガー号の誰かかもしれん! ギャラも出演者の中で圧倒的に高かったですから、タイガー兄さんはその劇場で一番のスターですよ」

ーー今でもそっち系の動物のギャラは高いですよ。ヘタしたら男優どころか女優より0が1個違うくらい高い。ちなみに、お母さんがそういうお仕事だと、転校とかイジメとかありませんでしたか?

「ありましたよ。お前の母ちゃんストリッパーや! って。で、そういう子らが下校する私を付けて来て、わざわざ劇場まで来よるんですわ。劇場のスタッフも私の友達や思って楽屋なんかに入れちゃって。でも楽屋にはタイガー号でしょう? 普通に暮らしてたら見たこともないような大きな犬とか、そもそもポニーとかが室内におるんです。すると、うわああ! お前の母ちゃんすげえ! 本物の馬や! て驚いて、何でかしらんけどイジメが尊敬に変わる」

ーータイガー兄さん様様じゃないですか!

「ね? そんなこんなで15歳まで劇場の楽屋で育ちまして、気付けば私もポール牧さんの付き人なんかを経て、劇場で仕事をする身になってしまいました。確かにこの歳でここまで劇場について知ってる人間は他におらんでしょうなあ。この職業もなるべくしてなったというヤツで」

 こんな生まれ育ちの松本格子戸氏は、今や彼以上の劇場界隈の顔役は中々いないというほどの存在で、エロに限らず様々なイベントを企画したり、また立ち上げたばかりで集客に苦労している若手の表現者を助けたりと、頼れる兄さんとして大活躍されております。

 表現の世界に入ってみたいとか、そういう業界で何か悩んでいるという方は、格子戸さんにダメ元で連絡を入れてみると、その先の道が開けるかもしれません。

[松本格子戸さんに関する情報はこちら]

Twitter: @koushido

興行インフォメーション:(http://koushidoshow.blog.fc2.com/)

ニコ生:http://ch.nicovideo.jp/frame

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Written by 荒井禎雄

Photo by 本人Twitterアカウントより

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