8月12日に行われたボクシング世界ダブルタイトルマッチ。WBC世界フライ級チャンピオンの八重樫選手は動きの硬い挑戦者・ニエベスを序盤からスピードとキレの違いを魅せつけて圧倒。危なげなく防衛を果たしました。
元世界チャンピオンの長谷川穂積選手の世界前哨戦は圧巻の1RKO勝利。対戦相手の意識をスパっと切り落とすような恐ろしいパンチの切れ味でした。長谷川選手はこの後、キャリア終焉に向けてどんな相手と闘いどんな試合を見せてくれるのでしょうか。
さてこの日一番注目していたのがWBC世界バンタム級チャンピオン「ゴールデンレフト」のニックネームを持つ山中慎介選手の防衛戦です。
この「ゴールデンレフト」というニックネームが表すように山中選手はサウスポーの強打者で、左ストレートは高いKO率を誇ります。攻撃力にばかりに目が行きますがデフェンス技術も高く、まさに「打たれずに打つ」を体現しています。
防衛戦の相手はプエルトリコのホセ・ニエベス選手。キャリアを考えても山中選手が格上。どういう勝ち方をするかが注目されました。
しかし、試合は圧勝。1Rに「ゴールデンレフト」を炸裂させてのKO勝ち。解説しながら、この試合を振り返ってみましょう。
序盤は小刻みに相手との間合いを微調整しながらプレッシャーをかけていく山中選手。彼の強さはこの「間合い」の作り方にもあると思います。
あくまでも自然に小さなステップを繰り返すことで自分のパンチは当たるけど相手のパンチは届かない位置にスッと移動しています。対戦相手は「なんで俺のパンチが当たらないんだ!?」と精神的にもプレッシャーを与えられてスタミナも浪費してしまうという悪循環に陥ります。
パンチのデフェンスというのは大きく分けると、
・頭を動かしてよける。
・手や肩でブロック。
・当たらない位置に間合いを外す。
の3つがあります。
この中で一番安全なのが間合いを外すことです。極端な例えですが10m離れたところにいる相手のパンチは目を閉じててももらいません(自分のパンチも絶対当たりませんが......)。
山中選手はそれをギリギリの距離で細かく微調整を繰り返しています。中盤は山中選手が徐々手数を増やしプレッシャーを強めていきます。ボディへの攻撃も有効なものがありました。これでニエベスは意識がボディにも向かいます。
そして迎えたフィニッシュ。
ボディへの攻撃のイメージが残っているニエベスにボディへのフェイントを交えた左ストレート一閃。素晴らしいKOです。
フィニッシュの左は、
・ボディへの目線
・右手をボディへジャブのようにスッと差し出す
・体全体をボディブローを打つ時のように沈み込ませる
さらに中盤のボディへの攻撃。
この4つの布石を織り込んでの一撃。ニエベス選手が試合後に「最後の攻撃は全くパンチが見えなかった」と語るのも無理はありません。
まさに「ゴールデンレフト」。
ステップを見ていても感じましたが山中選手は下半身のトレーニングをしっかり積んでいるのでしょう。どっしりと強いながらも軽やかに弾むような動きができています。最近は体幹部のトレーニングが重要視されていますが、体幹部の強さを地面に伝えるのも下半身です。立って行うスポーツでは下半身の強さがあってこそ体幹部の強さが活かされるんですね。
さて気になるのが山中選手の今後の対戦相手。現在、ボクシング界ではWBC、WBA、WBO、IBFと4つの主要団体があります。
小さい団体も入れるともっとありますが、日本ではこの4団体が認定する世界チャンピオンが「ボクシング世界チャンピオン」と認められます。さらに「暫定」とか「スーパー」とかありますが細かくなりすぎるのでここでは割愛します。
山中選手のバンタム級は、
WBC 山中慎介(日本)
WBA 亀田興毅(日本)
WBO 亀田和毅(日本)
IBF ジェームス・マクドネル(イギリス)
なんと4人中3人が日本人。しかも亀田家が二人!
この日の会場にはWBO世界チャンピオン亀田和毅選手が観戦に訪れており、山中選手もリング上から「亀田くん、統一戦で日本を盛り上げましょう」とマイクアピール。亀田和毅選手も以前に山中選手に挑戦したこともあるので今度こそ実現して貰いたいですね。
そして、ボクシングといえば見逃せないのが記憶に新しいロンドン五輪金メダリスト村田諒太選手のデビュー戦。8月25日に行われますが、場所は有明コロシアム。相手は元日本チャンピオン&東洋太平洋チャンピオンの柴田明雄選手。しかもフジテレビがゴールデンタイムに全国中継......と異例づくしのデビュー戦ですが、それだけ村田選手が規格外ということの証明。
通常、村田選手ほどのスター候補生ともなれば格下の外国人選手を連れてきて派手なKO勝ちを演出するんですが今回は日本人の現役東洋チャンピオン。村田選手を「本物」に育てようという陣営の本気と自信が伺えます。関係者の話によれば村田選手はスパーリングでは現役日本チャンピオンクラスを圧倒していたそうです。
こちらも期待大です。
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Written by 大野崇
Photo by 意志道拓/長谷川穂積