政治・経済会員制情報誌の編集次長をしていた時の事です。
編集部に行くと、女子社員が電話相手に、ペコペコ謝っていました。電話を切ったその子に「どうしたの?」と聞いてみました。
「ここの所、しつこいんですよ」
と、うんざりしています。聞いてみると、相手は有名私立大学の経済専門の教授。大学の教授って一部ではパラノイックなんですよね。「村社会」で育ったからですかね、と僕は推測しています。母校・法政大学のゼミの教授も「大学の先生は頭が固いから」と言っていたのを思い出しました。
先日、自死なさった元東京大学教授で評論家西部邁氏の著作「学者、この喜劇的なるもの」(草思社刊)で大学の内情を暴いていましたから参考までに。
当時、僕はその編集部ではデスク(兼次長)でしたので、困っている部下の女子社員に助け舟を出さなければと思いました。「次にかかってきたら僕に回して」と言っておきます。女子社員は「いいですか、すみません」ほっとした様子を見せました。
すると、間もなく、当の教授から電話がかかってきました。なるほど、しつこいです。記事の内容を細かく書くと、また執拗な電話がかかってくるのが面倒なので、少しボヤかしますね。しかも大した問題ではないので。雰囲気で察してください。
電話に戻ります。
僕「お世話になっております。教授からのご指摘のページなのですが、教授は監査法人に関して終始一貫したお考えを発表してらっしゃいますよね」
教授「だがオタクにはこんな事話してないよ」
と、びしゃっと言います。言葉の具合からするとかなり、プライドが高そうです。つい僕も、態度を硬化させました。
僕「いえ、話していらっしゃいます。記者の取材にお答えになられたじゃないですか」
教授「いや話していません。似たような事は他社の記者には言いましたけど」
「あ。言ってるんじゃん」という言葉は飲み込みました。
僕「重要な事は先生がそういうお考えを持っているという事です。これは別におかしいことではありませんから、いいじゃないですか」
となだめます。うるさい先生です。でも「言っている」→「だから記事にした」という流れは別に問題ないと思いました。
このまま押し問答を続けてもラチが明かないので電話を切り、執筆者の記者に確認したら、間違いないとのことです。
再度教授に連絡すると段々激昂してきてしまいました。さすが、名誉教授。プライドが高いです。で、話を続けていると、こう言ってきました。
教授「あのねえ、これは名誉毀損ですよ」
お。そう来ましたか。僕は何度もこのセリフを言われてきました。そして多分、この教授よりもこの手の問題は取り組んできました。ですから、少し芝居をしました。
僕「え? 名誉毀損? 名誉毀損ですね? じゃ、それでやるんですか?」
と強い口調で言ってみました。ブラフに近いです。すると教授の声がトーンダウンしちゃいました。
教授「別に訴えるなんか言ってないだろ」
僕「ではどうしろと仰るんですか?」
教授「謝罪して貰いたい」
僕「それはできませんよ。うちは確かに先生のコメントを正確に載せているんですから」
教授「しかし、名誉毀損......」
僕「この記事には真実性、公共性、公益性が欠けていますか? あるいは先生の社会的立場を貶めましたか」
教授「とにかく謝罪がなければ納得できない」
もう、事実関係ではなく、プライドの問題になってしまいました。一応、名誉教授なのですけれどファクトはどうでも良いみたいです。
僕「でも、謝罪文出したり会社としては謝る事はしませんよ」
教授「いや、謝ってもらいたい」
子供みたいになってきましたので、僕は会社には迷惑をかけない、その代わり僕のプライドを捨てようと思いました。
僕「ただ、僕個人の名前では謝る事はやぶさかではありません」
変わった提案ですが、会社に被害が及ぶくらいなら僕が頭下げれば済む話なんじゃないの?と思った訳です。
教授「うーん......」
僕「この件では僕が、責任者として謝罪文を作成して郵送致します。その内容でご不満でしたらまた、ご連絡頂けますか?」
と、いう訳で自分の名前と印鑑を押し、謝罪文を書き、送りました。
後日、電話をしたら「これで大丈夫」との事でした。変形ですが、会社まで被害が及ばなくてホッとした次第です。
大学の先生って、全員ではないとはわかっていますが、一歩間違えると面倒くさいですね。因みに、この大学は都内一等地にあっておしゃれな大学でスポーツも盛んです。ヒントは僕の母校・法政大学くらいの偏差値くらいらしく、よく同じような呼び方で言われます。(文◎久田将義 連載「偉そうにしないでください。」)
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