今回は前回に引き続き、ブラジルの危険なカーニバルの状況、そして今後、開かれるサッカー・ワールドカップやオリンピックについて、旅行作家の嵐よういち氏に話を聞いた。
◇
――嵐さんはブラジルのカーニバルに行ったことはありますか?
嵐 リオ1回、サルバドール2回。合計3回行ったことがあるよ。カーニバルはすごい熱気がみなぎっていて、人間はこんなにエネルギーを出せるんだと驚くぐらい楽しいよ。だけど、その反面、危ないということを理解しないといけないよね。
――カーニバルも相当危ないと?
嵐 ああ、俺が行ったときも同行者の旅行者がカメラを盗まれたり、ガラの悪い連中に何度も囲まれそうになった。警官はあちこちに立っているんだけど、絶対数が足りなすぎるんだよね。悪いやつらは年に1回の祭りを楽しみながら、盗みをしたり悪さをするのが恒例になっているから、街中の悪いオールスターが集まっているような感じだよね。
彼らの目つきは尋常じゃないよ。明らかに獲物を狙う目つきをしていて「殺す」とか「ちょっと来い」なんてしょっちゅう言われるし、周りがごちゃごちゃしているから、隙を見せると、あっという間に囲まれて殴られたり、物を盗られたりする。道を歩いているだけで自然にポケットに手が入ってくる状況だからね。
ライターの後輩とサルバドールのカーニバルに行ったときは、こんなことがあったよ。その後輩はどれだけの財布が盗まれるのかを実験しようとして、7、8個の財布をポケットに入れていったんだ。すると殴られたり、ポケットをまさぐられたりして、5、6個は盗まれてしまったからね。世界中で最も治安の悪い祭りは文句なしに、あそこだろうね。
――そんな街でワールドカップやオリンピックが開かれて大丈夫なんでしょうか?
嵐 どうだろうね。あの治安を考えると大丈夫とは言い切れない。現地のブラジル人に聞くと、警察官を大幅に動員するから問題ないと言っているけど、それはあくまで現地人の見方でしかないしね。ブラジル人はお祭りになると熱狂的になる性質があるから、突発的な事件、事故に巻き込まれる可能性は否定できない。
――以前、「世界で最も危険な街」として悪名高かった南アフリカのヨハネスブルグでワールドカップが開催されたときは、思ったほどの被害はなかったようでしたが。
嵐 白人たちが統治機構を握っている南アフリカと比べてブラジルはいい加減な国だからね。単純に同一視はできないよ。もちろん、訪れる人が安全に旅行してくれることを願っているけど、注意するに越したことはない。
――具体的にはどのように注意するといいんですか?
嵐 まずは、雰囲気の悪い場所や町外れに足を踏み入れないこと。あと、暗くなってからは外出しないこと。当たり前のことだけど、これをきちんとしていれば、ほとんどの犯罪は防げると思う。
そして万が一、強盗などに遭ってしまったら、抵抗しないことが大切だね。「金を出せ」と言われて「なんだ、お前は」と抵抗したら、ズドンと撃たれるかもしれない。撃たれた人の話の聞くと、みんな抵抗しているんだね。だから、決して無理はせずに「ごめんなさい」と金を渡したほうがいいね。命より大事なものはないんだからさ。
――ごもっともです。
◇
嵐さんは南米以外にも、「リアル北斗の拳」のような地として有名な南アフリカのヨハネスブルグや、世界一危険な都市ランキングの上位に位置する、メキシコのシウダーフアレス、ホンジュラスのサンペドロスーラなどにも実際に足を運んで取材している。
それらの街の「特殊」な事情をいずれインタビューしたいと思っているので、楽しみにしていていただきたい。
【関連記事】W杯と五輪を控えるブラジル・ブラックロード前編
Written by 草下シンヤ
Photo by 小野神真弘