裏社会に出回る手配書には何が書かれているのか? 草下シンヤ『ちょっと裏ネタ』

2013年11月29日 手配書 草下シンヤ

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 近年、重大事件の犯人逮捕につながる有力情報に懸賞金がかけられることが増えてきた。リンゼイさん殺害事件で2年7ヶ月に及ぶ逃亡生活を続けていた市橋達也に1000万円の懸賞金がかけられていたのは記憶に新しいが、つい先日も、三重県で中学3年生が殺害された事件に関する有力情報に300万円の懸賞金が支払われることになった。 

 表社会では、警察が容疑者を指名手配したり、懸賞金をかけたりと、犯人逮捕につながる情報を求める手段が積極的に取られている。そしてそれは裏社会でも同じだ。
 数年前、わたしは暴力団関係者に携帯電話の画面を見せられながらこのように尋ねられたことがある。

「草下さん、この男知らない?」

 画面には監視カメラで撮影したような粗い画質の男の顔写真が写っていた。目付きは悪いがいたって普通の雰囲気の若者である。

「いえ、知りませんが」

「そう。どこかでこいつのこと見かけたら教えてよ」

「その人どうかしたんですか?」

「ん、まあね」

 男は画面をスクロールさせて、メールの本文を見せてくれた。そこには、男の住所、氏名、電話番号などの個人情報と、身長などの身体的特徴、男を捕まえた場合の連絡先、そして捕まえた場合の成功報酬が書かれていた。たしか金額は20~30万円ほどだったと記憶している。

「こいつはほうぼうに金を借りてトビやがって。みんな探しているんだよ」

「捕まえたらどうするんですか?」

 男は意味ありげな含み笑いをして答えなかった。大方、借金を返すために違法薬物の運び屋でもやらされるのだろう。このような裏社会の手配書を見たことは一度や二度ではない。

「趣味:パチンコ、競馬、麻雀」と書かれているFAXの手配書を見たときは、そういうところを重点的に探してほしいんだなと思ったり、「探し人 情報求む」という本文と特徴、連絡先だけが書かれているメールを見たときは、このメールが警察に持ち込まれることを警戒しているのかななどと思ったりした。

 それにしても100万円程度を持ち逃げしたぐらいでは、捕まったとしても命を落とすようなことにはならない。

 問題なのは持ち逃げしたのが、「多額の組織の金」だったり、「組長や兄貴分の女」だったりする場合だ。この手のケースではFAXやメールの手配書のように証拠が残る形で情報が回ってくることはない。突然、組織の人間から電話がかかってきて、「○○のこと知らない?」と聞かれるだけだ。傾向としては、深刻な内容であればあるほど、明るい声で尋ねられることが多いように思う。

「知りませんが」と答えるが、相手はこちらの声色に神経をとがらせている様子だ。「どうかしたんですか?」と聞いても、「いや、いいんだ。噂でも聞いたら教えてよ」とあくまでも明るい口調で答える。逆に怪しい雰囲気なので、関係者に探りを入れてみると、深刻な案件で組織に追われていることが判明する。

 わたしのような立場では顛末まで知ることはできない。酒でも飲ませていい気分にさせれば口を開いてくれるかもしれないが、知らなければよかったという結果になることが想像できるから、聞き出そうとも思わない。

 逆に、聞いてもいないのに、兄貴の女を寝とった男が女と逃げた、2人は組織の人間に捕まり、新潟の山中に埋められたなどという、なんのヒネリもない話をする者もいるが、そんなのは到底信じられるはずがない。

 ともかく、表社会裏社会問わず、人に追われるようなことをしないほうがいいのは世の道理である。

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Written by 草下シンヤ

Photo by raruschel

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