プチ鹿島の「余計な下世話」

北朝鮮は替え歌で粛清、高まる詩人の地位|プチ鹿島の『余計な下世話!』vol.68

2014年11月04日 プチ鹿島 北朝鮮 粛清 詩人

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 最近海外ニュース番組をザッピングしながらニュースを語るという番組(BSスカパー『News ザップ!』)に出演して「今週の10大ニュース」を選んでいるのですが、ここで必ず北朝鮮ニュースを入れている。「不思議な国の北朝鮮」については専門家の人の意見をどんどん聞いてみたいからだ。

 先週は「北朝鮮、幹部ら50人銃殺」というニュースがあった(中央日報日本語版)。

 昨年末に金正恩が叔父であり後見人だった張成沢(チャン・ソンテク)を処刑したが、その後も張成沢の側近だった人物への粛清がまだ続いているというのだ。そのイチャモンのつけ方が凄い。賄賂や女性問題、韓国ドラマを視聴したなどの理由で銃殺されたというのだ。韓国ドラマを視聴したからって......!

 さらに、体制を称賛する歌を金正恩を非難する替え歌にしてカラオケで歌ったら処刑された者もいたという。北朝鮮には「社会主義は私たちもの」という歌があるらしいが、これを党幹部が「社会主義はお前らもの」と歌詞を変えて歌った。そして「私たちの党よ、ありがとう」という歌詞の部分を「お前たちの党よ、ありがとう」に、「憎しみは敵に、愛は祖国に」の部分を「憎しみは本妻に、愛は情婦に」に変えて歌ったところ、北朝鮮当局に摘発されて銃殺されたというのだ。ひー。

 ここで思い出したのが昨年話題になった『金王朝「御用詩人」の告白 わが謀略の日々』(張 真晟 文藝春秋)という本だ。

 著者は脱北者だが、もともと北朝鮮のエリートとして育ち、平壌音楽舞踊大学卒業後は詩人としての才能を認められ、金正日の礼賛詩を書いて出世した。

 つまり北朝鮮では「詩や歌」が重要なメディアなのである。著者によれば、北朝鮮を建国した金日成の死後、金正日政権になると詩人たちの地位が高まったという。これは金正日が詩が好きだったからではなく、経済難による紙不足で小説家がたちに紙が供給できず、短い文章でもいける詩人の立場が上昇したのだという。

「詩は数小節だけでも意思の伝達が可能な簡便な文学なので、金正日の感性政治の手段としても合っていた」と著者は述べる。北では叙事詩を書く詩人を貴族詩人と呼び、著者が成功する前は5人いた。

 で、そのあとの金正恩政権である。体制を称賛する歌を国民に歌わせていたら、替え歌事件が起きた。ここで想像したいのは「庶民の知恵」だ。言論の自由がない国でガス抜きするとしたら直接的な批判はできない。そこで有効なのは替え歌であり、それでもきわどい茶化しはダメとなれば、表現方法は今後どんどん「上達」するのではないだろうか。

 先週私と同じ番組に出た森達也氏は「いま中国では素晴らしいドキュメンタリーがつくられている。規制が多い国だからこそ皮肉なことに"良いお題"が多いから」とコメントしていた。中国に負けず規制が多いのは北朝鮮である。映像は無理だろうが「替え歌」がある。

 そのうち世界をうならせてくれる「ユーモア詩人」が登場するのではないか。妄想しながら期待したい。

【前回記事】
競馬界に伝説のミラクルおじさん再び!? プチ鹿島の『余計な下世話!』vol.67

Written by プチ鹿島

Photo by 金王朝「御用詩人」の告白 わが謀略の日々

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プチ鹿島●時事芸人。オフィス北野所属。◆TBSラジオ「東京ポッド許可局」◆TBSラジオ「荒川強啓ディ・キャッチ!」◆YBSラジオ「はみだし しゃべくりラジオキックス」NHKラジオ第一「午後のまりやーじゅ」◆書籍「うそ社説 2~時事芸人~」◆WEB本の雑誌メルマガ ◆連載コラム「宝島」「東スポWeb」「KAMINOGE」「映画野郎」「CIRCUS MAX 」

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