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そんな状況の中、出演オファーをしてくれた番組があった。
「バリバラ」
NHK Eテレで放送している障がい者のための情報バラエティ番組。身体障がい、精神障がい。感動や美談で、障がいをコーティングするのではなく、障がいと障がい者を、世にあるもの、社会に生きる者としてありのままに伝えていく。常にテーマを投げかけ、共に考えようとしていく。バリバラには、スタッフや出演者の情熱が、笑いと共に注がれていた。
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『相方は、統合失調症』より(松本キック著・幻冬舎)
統合失調症だと分かれば、芸人として笑えなくなるという声もあったが、漫才コンビ「松本ハウス」のハウス加賀谷さんは、初めてテレビで統合失調症であること公表した。今の自分を受け入れ、新しい自分に価値を見出すことでコンビとして「新しい章」に入ったと松本キックは書く。現在は全国から講演会にも呼ばれ、漫才あり、経験談ありの"笑い合える"内容は引っ張りだこの状態となっている。
松本ハウスを「蘇生」した「バリバラ」。8月28日の生放送が話題である。内容は以下。
《「なぜ世の中には、感動・頑張る障害者像があふれるのか?」その謎を徹底検証!スタジオでは「障害者を描くのに感動は必須か?」「チャリティー以外の番組に障害者が出演する方法は?」などのテーマを大討論!》(番組HP)
裏では「24時間テレビ 愛は地球を救う」が放送されていた。「バリバラ」は、障害者コメディアン、ステラ・ヤングの「感動ポルノ」という言葉を紹介した。頑張る障害者をことさら強調する番組作りについて。
《「自分らの人生は最悪だけど、下には下がいる。彼らよりはマシだと思うでしょう。私たちはこれを「感動ポルノ」と名付けました。》
障害者は、健常者に勇気や感動を与えるための道具になっていると指摘した。この当事者の言葉、ハッとした。以前からモヤモヤしていた、あるフレーズのことも思い出したからだ。
それは「被害者や被害者の遺族の気持ちを考えろ」という言葉だ。何か事件が起きたとき、加害者の人権や加害者の家族を配慮する声が出ると、よく叫ばれるフレーズである。
でも私は常々思ってしまう。被害者や、被害者の遺族の気持ちを考えろと声高に言う人は「本当に」当事者の気持ちを想像してるのだろうかと。
もしかしたら当事者の気持ちを勝手に代弁してるだけで、自分が気持ちよくなっているだけかもしれない。当事者抜きの正義の暴走。それはただのなりすましである。「感動ポルノ」という指摘にも同じような構図を感じた。
私は24時間テレビの善意も大切だしエライと考える。しかしあまりに当事者以外がうっとりしていると「当事者の気持ちを勝手に代弁してるだけで、自分が気持ちよくなっているだけかもしれない」とも思う。そんなことを考えさせてくれたバリバラは面白かった。
ただ今後気を付けなければいけないのは、"「バリバラ」が正義で「24時間テレビ」が偽善"というわかりやすい区分けだ。両者のどちらかで勝者を決めるのではなく、両者は共存すればいいのだと思う。毎年同じ時間帯に放送し、お互いを補完しあえばいい。
たとえば「バリバラ」では、鈴木おさむ氏が「ココが変だよ健常者‼人気芸人VS障害者100人!」という企画を提案した。障害者を扱う番組が「ふつう」になるために。
これを「24時間テレビ」が取り入れる。相互に出演者も行き来する。そうすれば感動ポルノの成分は徐々に薄まる。「バリバラ攻めてる!」という感想が多かったが、私は決して攻めていないと思う。ふつうを提案しているだけだ。
来年も「24時間テレビ」と共演する「バリバラ」が楽しみだ。
Written by プチ鹿島
Photo by 相方は、統合失調症
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