「事故物件」とは何か?
皆さんはどんな家にお住まいでしょうか? まもなく本格的な引っ越しシーズンに突入する時期となります。
不動産に素人の方は、無知に付け込んで事故物件を勧められることにはご用心頂きたいのです。
「事故物件」とは不動産業界の用語で、「過去に自殺・他殺・変死などがあった不動産」をさします。非常に悲しいことですが、現在の年間自殺者数は3万人弱。これだけの人が自ら命を絶っているのですから、その現場となった部屋が賃貸や売却目的で市場に出回ることは決して珍しいことではありません。不動産の構造面には何ら変わりはなく、少なくと物理的には従前と同じように使用できます。
とはいえ、あなたは数ヶ月前に殺人事件があった家に住みたいでしょうか? 霊魂や死霊の存在を意識する日本人の精神特性も影響していますが、事故物件はそこに住む人の「住み心地」に影響します。よって、たとえ建物自体に物理的瑕疵(例えば雨漏り)が無くとも、心理的瑕疵にはなりうると考えるのが判例・学説のほぼ一致した見解なんですね。
では、心理的瑕疵アリとされた物件は取引上どうなるのでしょうか?
「競売物件の場合、事故物件と分かれば、不動産鑑定士の資格を持つ評価人はマイナス30%の『事故物件修正』を行うのが普通です。このことは『評価書』に必ず書いてあります」(宅建主任者の資格を持つ法律ライター)
競売や公売といった公的な売却ではもちろんのこと、民間同士の売買でも心理的瑕疵は当然考慮されます。
売主や仲介業者が宅建業者である場合、宅地建物取引業法47条1号で「宅建業者は...契約の締結の勧誘に際し、...故意に事実を告げず、または不実のことを告げてはならない」と明確に定められているのです。
違反には同法79条の2により「2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金又はこれを併科」という重い罰則があります。重要事項の不告知は取引当事者の判断を誤らせるので当然のことなのです。
都合の悪い事実は、こうして隠される
「ただ、事故物件であることを隠蔽するオーナーや不動産業者は残念ながら一定割合存在します。事故物件であったことが後日バレて、裁判にまで発展したトラブルは枚挙にいとまがありません」(前出の法律ライター)
事故物件であることを隠すのは、いうまでもなく取引の相手方から事故物件であることを理由に値切られるのを恐れるためです。
「都内の場合だと、若いサラリーマン大家さんは大抵がローンを組んでアパートを建てています。家賃値下げは直ちにそのローン返済を直撃するので、借金のない老夫婦大家さんなら家賃値下げに応じてくれるところを、『そんなに値下げしたらこっちは破産だ!』と必死で抵抗してきます」(都内新宿の不動産仲介業者幹部)
そこで、狡猾な不動産業者や余裕がないオーナーは、1円も値下げせず貸そうとします。
「その際使われる常套手段が『直後の借主に対しては事故物件である旨の告知義務があるが、その後の借主に対しては告知義務はない』『事故物件も半年経てば告知義務が消滅する』という仲介業者の言い訳。中にはそれを信じ込んで自社の社員を短期間住まわせたり、実際には居住すらせず住民票だけを異動させて"ペーパー賃借人"をでっち上げる悪質業者さえもいます」(前出の法律ライター)
しかし、これは何ら根拠のない都市伝説。宅建業を主管する国土交通省も「何年経過すれば告知義務が消滅するか、一律の基準を示すことは困難」との慎重な立場を取り、現に裁判例では約8年前の殺人事件不告知で告知義務違反に基づく損害賠償が認められているのです。ペーパー賃借人など言語道断でなのです!
業者の隠蔽にはこうして自衛せよ!
では、消費者はどう自衛すればよいのでしょう?
まずは、契約前に「この家で過去に自殺、他殺、孤独死等はありませんね?」とハッキリ質問することです。
過去に事故がなければ、重要事項説明書にその旨を書けるはずで、言葉を濁すようなら何かあると思った方がよいでしょう。
そして、契約前に必ず現地調査を行い、菓子折でも持って近所の人に話を聞いてみることが重要です。
実際に足を運ぶと「実は、あそこは、夜になると...出るんだよ」といった重要事項説明書を読んでも絶対に出てこないが、極めて大切な情報が得られるかもしれません。
取材・文◎駒場文一