【特集◎NHK紅白歌合戦の闇】紅白歌合戦から演歌歌手が激減したワケ|文◎藤木TDC

2017年12月29日 NHK 暴力団 演歌 紅白歌合戦

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今年の「紅白歌合戦」の出場歌手を見ると、紅組白組あわせた48組(特別出演の安室奈美恵、桑田佳祐含む)のうち15回以上出演歴のあるベテランがわずか9組(赤組5、白組4)、対して出場4回以下が23組と(赤組13、白組10)非常に偏りがあって、最近の歌手をほとんど知らない筆者のような中高年にはまったくアピールしないラインナップになっている。

初出場のエレカシとか3回目の松たか子とか、ゲスト枠的な出場者も含まれるとはいえ多くは若手歌手であって、大晦日の夜には友達と遊びに出てテレビの前にいないであろう若者向けのラインナップで、はたしてコア層の中高年視聴者から満足が得られるか心配になる(べつにNHKの心配をしてやる義理もないけども)。

なぜこのような偏ったブッキングになるか。仮説のとしてよく挙げられるのが暴対法、暴排条例の影響で、暴力団と関係するベテラン演歌歌手に出演依頼できなくなったとの説だ。

今年の「紅白」に出場する演歌系歌手は紅組7人、白組5人の12名。うち15回以上出演は紅組が4名(天童よしみ、水森かおり、坂本冬美、石川さゆり)、白組は五木ひろし、氷川きよしの二人しかいない。
20年前、97年の紅白は演歌系が紅組12人、白組11人もいて、うち10回以上出演のベテラン演歌歌手は10人いた。
T.M.Revoiution、Every Little Thing 、Le Couple(いずれも同年初出場)ら新しいJポップ系も起用しつつ番組の芯はベテランの演歌でがっちり締める、この時代のラインナップこそオーソドックスな紅白歌合戦のイメージではないか。

それからすると今年の紅白はあまりに若作りで、演歌歌手でさえ一般的知名度がそれほど高くない若手を強引に起用している印象がある。

演歌系歌手が減ったワケ

それは、長年大晦日の「紅白」を楽しみにしてきた人々にしたら、物足りなさを感じる要素のはずだ。ただ、そうなった理由が暴対法絡みで出演依頼ができず、演歌系が減ったとの説は的を射ていない。

暴力団と交流のある歌手をNHKが懸念しているとの説は、2011年秋に写真週刊誌「FRYDAY」が掲載した「暴力団交流リスト」に端を発していると思われる。

NHKのプロデューサー経由で流出したとされるリスト(怪文書ではある)が掲載され、「紅白」出場の有力候補の名前の脇に「宗教」「訴訟問題」「健康問題」などメモ書きが付されたほか、多くの演歌歌手の名前に「暴力団」とメモ書きがされていたのだ。

そのリストが本物かはかなり怪しい。なぜなら「暴力団」と記載されて黒い交際を報道された中にも、その後何回も連続して紅白に出場している大物歌手はいるし、そもそも歌手と暴力団の交流が盛んだったのは組直系の興行会社が主催する地方公演や、クラブ・キャバレーへの出演が盛んだった70年代頃までのこと、現在は歌手自体もプロダクションも、面倒が起きると死活問題なのでなるべく暴力団系とはつきあいをしないようにしているといわれている。

しかし、たとえば今年出版された一和会系加茂田組元組長・加茂田重政の交流アルバム「烈侠外伝 秘蔵写真で振り返る加茂田組と昭和裏面史」(サイゾー刊)などを見ると、あっと驚く大物歌手や大物タレントが組の重鎮らしき方々とバッチリ記念写真に写り、これだから「紅白」も...と考えてるのも仕方ない。

とはいっても同書掲載の写真もだいぶ古いものだ。09年に発売された内田裕也のインタビュー本「内田裕也 俺は最低な奴さ」(白夜書房)にも、60年代のジャズ喫茶がいかにヤクザをマネージャーや用心棒として活用していたかバッチリ書いてあるけれど、今は繁華街を歩いてもジャズ喫茶もキャバレーも、有名歌手が出演するクラブもない。

ま、その裕也氏は組関係のパーティで挨拶する動画が今もネットに出回り続けていて、つまり現在でも羽振りがいい組長とはお小遣い目的でゴルフとか誕生日パーティの挨拶ぐらいはするだろうけども、それでも基本的に仕事上の深いつながりがあるとは考えにくい。

なぜなら暴力団系の興行会社など、たとえ堅気を装っていても現在では商売がやりにくく、歌手の側につきあうメリットはないからだ。

かつては紅白歌合戦に出場すると、番組自体の出演料は微々たるものだが地方興行のプロモート代などが大幅に上がるため、興行会社も喜んだし歌手も地方興行(いわゆるドサ回り)に励んだわけだが、不景気の昨今、地方でコンサート、ディナーショーの類いがが行われること自体が少なくなったし、あっても堅気のプロモーション会社が地元商工会などの協賛を得て主催するケースが多いだろう。そこに暴力団が介在する余地はない。

ま、漁業地とか土建関係者とか、グレーな有力者は介在するとしても、そんなことを言ったらNHK自体、地方ロケの時にやむをえず地元の組関係に挨拶しなきゃならないケースのほうが多いのではないだろうか(だいたい酒一升の付け届けで済むとの説も)。

話はそれたが、要するにすでに大物と認識されている歌手が今さら「紅白」に出てもギャラが今以上アップできるわけでもなく、拘束時間が長くギャラも高くない大晦日の仕事はマネージャーらスタッフの待遇も含めて積極的になれないので出演しない、というのが「紅白」からベテラン歌手が減ってゆく最大の理由だろう。


一方、NHKサイドにしても歌番組の枠自体が減ったうえ、プロダクションに顔の利くベテランプロデューサーも退職して少なくなり、いろいろ気をつかう演歌系のキャスティングは難しいのだ。

よってJポップ系の番組を担当したプロデューサー中心に出演者を選抜すると、今回のような中高年視聴者が「この人、誰?」と思うようなラインナップになるのは仕方ない。発覚したとしても「知らなかった」で済むわけだし、NHKにとっては出場者と暴力団の関係など、ずっとずっと後ろのほうの小さい問題なのである。

昭和中期に較べれば芸能界―興行の構造がだいぶ変わったが、平成時代も中盤以降は芸能界―テレビ局の構図も大きく変化し、その影響が「紅白歌合戦」に凝縮されて現われているということができよう。

その意味でこれから「紅白」で問題になるのは、たとえばジェンダーの問題、なぜ男女を分けてチームを作るのか、なぜ女性は紅で男性は白か、あるいはモラルの問題として「国民的番組」が応援の場面で「エイエイオー」とやるのは戦時を想起させて云々など、ネットでネチネチ追及する人が増えることに頭を抱えるケースが多くなるのでは。「紅白歌合戦」の闇はどんどん夢のないものになっていくのだ。


文◎藤木TDC

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