総事業費9兆円超でJR東海が東京―大阪間の建設を目指すリニア中央新幹線。2027年の品川―名古屋間の先行開業に向け工事はすでに始まっている。
筆者は南アルプスの自然破壊の観点から、この問題を登山関係の雑誌を中心に何度か取り上げてきた。超電導技術がどこまで営業路線に活用できるのか、その安全性や経済性は、新幹線の3倍とも言われる過剰な電力を使ってまで実用化させる必要があるのか......「夢の超特急」と言われるわりには、突っ込みどころは満載のはずだが、大手紙やテレビだけでなく、雑誌でも批判的な記事を見かけることが少ない。タブーが事故で隠しようがなくなった原発と比べると、開発の規模に比しておとなしい。しかしそれには仕掛けがある。
リニアの問題を継続的に追っているフリーランスを筆者はほかに2人しか知らない。先日、そのうちの一人が新たに週刊誌に書かせてもらえなくなったとぼやいていた。その記者が書く記事が雑誌に出る度に、JR東海の広報部の社員が数人で資料を持って雑誌社を訪れ、「ご説明」に上がるのだ。
小さな記事でも欠かさずやって来て対応に時間を取られるので編集者が根を上げ、以後リニアの件を取り上げるのをやめる、とその記者に通告したという。 当初からリニアの問題点を積極的に取り上げてきた雑誌だけに残念だが、彼の場合、出版社がリニアを批判する単行本を発行し刷り上った後に、その出版社の母体となる大学から待ったがかかって、出版が取りやめになった経験もある。
この事件がJR東海からの働きかけによる結果かはわからないが、筆者が知っている中でもう一人、フリーランスがリニアを記事にした後、新聞社系の週刊誌が批判的な記事を取り扱わなくなったことがある。 やはり「ご説明」の結果だ。せいぜい一段分の短い記事だったが、そのフリーランスの彼はリニアのことを以後書いていない。週刊誌の場合、キオスクに置かないという奥の手がJRにはあるので、JR東海による牽制は通常より効くかもしれない。
筆者自身も登山の雑誌で「ご説明」部隊とやり取りした。南アルプスのトンネル工事について特集記事を作るため、自然環境への影響や工事の安全性への懸念についての質問を箇条書きにしてJR東海に送った。そうすると警戒したのか、しばらくして企画書を送ってほしいと言ってきた。企画書を送ると回答が来たが、実際には質問した複数の質問が一つにまとめられ、回答は「未定」すでに他の報道で知っている以上の内容はあまりなかった。
聞きたいことに答えず誠意も感じられなかったので、締め切りも近づく中、回答は反映せず記事にした。 その後JR東海からは筆者の記事に13カ所のクレームが入った。「一方的」という批判が多かった。筆者としては推進側の意見も載せ、バランスをとったつもりだったので憮然としたが、たしかに数値の引用ミスもあったので謝るべきところは謝った。とはいえ、指摘の内容には、たとえば各県一つの中間駅を「実質無人駅」と書いたら、営業専任要員はいないが「施設管理等の要員」は置いているから間違いと強弁するなど、どちらが「一方的」だと首をかしげるものも多い。
もちろん編集部のほうにも「ご説明」部隊が登場して資料を置いていったのは言うまでもない。 その後も一度同じ雑誌社でルポを書いたところ、5カ所のクレームが入った。このときは編集部が対応してくれたが、どう考えても見解の相違の範囲としか思えなかったので反論すると、延々と数カ月もやり取りが続く。
一回目のときは、リニアはJR東海の全額出資とは言うものの、「資金が尽きた場合、JALのように税金を投じられる可能性は拭えない」と書いた。それに対し「一方的」と言うので、JR側が求めて不動産所得税を免除してもらっている(つまりもう税金は投じられている)と言い返すと返事が来なくなった。どうやら黙ると負けるようだ。
どう考えてもJR東海の広報部は仕事で「嫌がらせ」をしているとしか思えないのだが、実際にそれで雑誌が批判しなくなるのだから侮れない。明らかに「口封じ」が目的だが、言論弾圧を問題にしそうな左派系の雑誌は、最初から効果が上がらないと思っているのか、「ご説明」部隊はやってこない。その代り雑誌に実害もないので企画にもならない。全国紙とテレビ局は最初からやる気がない。どうやらこうすれば翼賛報道は作れるようだ。
Written&Photo by 宗像 充
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