親黙り、子黙り 「4歳児ぐらいの大きさの真っ黒な物体」|川奈まり子の奇譚蒐集二六(下)
いつの間にか眠りに落ち、翌朝は目覚まし時計の音で目を覚ました。
家族全員で宿泊棟を出て、宿の母屋にあるレストランで朝食をとった。他の宿泊客も大勢そこに集まって食事していた。そして、朝食が終わる頃になると、宿の主人が現れ、レストランに居合わせた皆に、有料の夜光虫と星空見物ツアーの参加者を募った。
祥吾さんと正美さんは困惑し、宿の主人や他の宿泊客に対して少し後ろめたさを覚えた。知らなかったこととは言え、無料で夜光虫を見せてもらってしまったので。あのアルバイトの少年は、宿がこういうイベントを企画していることを知らなかったのだろうか?
そこで、レストランを出る前に宿の主人に昨夜のことを話したのだが。
「近所の高校生のアルバイトですか? 女の子なら2人いますよ」
「いいえ。男の子で、鈴木太郎と言っていました」
祥吾さんが宿の主人にそう言うと、正美さんが怪訝そうに「違うでしょ?」と横合いから口を出した。
「そんな名前じゃないわ。佐藤タケシくんよ」
宿の主人は肩をすくめた。
「どっちにしても、うちのアルバイトじゃありませんよ。バーベキューに誰かまぎれこんでいたのかもしれませんね。……ちょっと危なかったんじゃないかな。知らないヤツに夜の海に連れていかれて、何かあったら大事になるところです。次からは気をつけて!」
旅行2日目のその日も、日没まではこれと言ってトラブルもなく、式根島観光を楽しんだ。
宿で自転車を借りて、天然温泉と展望台など、島の観光スポット巡りをし、午後3時頃から1時間ばかり、昨日と同じ、宿の近くの海水浴場で子どもたちを遊ばせた。
その日の夕食は、郷土料理が売りの食事処に5時半から予約を入れていた。宿の主人の話では、子どもの足でも5分で行けるところにあるということで、実際、会話しながら歩いていたらあっという間に店に到着した。
島の特産物である明日葉の天ぷらの他、赤烏賊、とこぶし、金目鯛などの海の幸を堪能し、祥吾さんと正美さんはビールで乾杯した。
その頃には、祥吾さんは、昨夜の怖い出来事がすべて夢だったかのように思われてきていた。それほど、一点の曇りもない完璧な1日を過ごしたのだった。
勘定を済ませて店から出ると、4人は夜の道を宿へ向けて歩きだした。
しかし、それから1分と経たないうちに翔琉さんがこんなことを言って、全員立ち止まることになった。
「パパ、ママ! 後ろからお友だちがついてくるよ」