釜ヶ崎のおっちゃんとわたしが終わらせないでいる日常|成宮アイコ

つい後回しにしてしまう脆いもの

日常は簡単に壊せます。だれかの人生だって簡単に壊せます。それは戦争というものでも、ほんの小さな悪意でも同じことです。たった一言の悪口で世界が終わって、学校やバイトや仕事に行けなくなってしまう。

だけど、頑張って続けて行くこともできるのです。

「頑張って」というのは、きっと思いやりや優しさというのは人間にはあらかじめ備え付けられているのだと思いたいけれど、それは意識をしていないとつい後回しにしてしまうような脆いものでもあると思うからです。

目の前で人が傷ついたり困ったりしているところは見たくない、この町のように平和な光景でなければアイスはおいしく感じないだろうし、できれば誰もそれなりに幸せにいてほしい。それでもときどき、自分のめんどくさい感情に負けて、困っている人の存在を見ないふりしてしまったり、嫌いな人への意地悪な気持ちが湧き出そうになります。

最近知ったのですが、このサーティーワンアイスクリームは、閉店をしたそうです。

見慣れた蛍光ピンクのあの看板は、わたしがいま住んでいる街からもなくなってしまいました。隣の駅まで行かなくてはいけません。当たり前のことなんてないのです。

でも、それでもわたしはまだ、未来は当たり前にあると思っていて、数日後の約束をカレンダーアプリに書き込みます。10年後も20年後も、ずっとそうであればいいと願いながら。(文◎成宮アイコ 連載『傷つかない人間なんていると思うなよ』第三十一回)

文◎成宮アイコ
https://twitter.com/aico_narumiya
赤い紙に書いた詩や短歌を読み捨てていく朗読詩人。
朗読ライブが『スーパーニュース』や『朝日新聞』に取り上げられ全国で興行。
生きづらさや社会問題に対する赤裸々な言動により
たびたびネット上のコンテンツを削除されるが絶対に黙らないでいようと決めている。
2019年皓星社より朗読詩集「伝説にならないで」刊行。ほかの書籍に「あなたとわたしのドキュメンタリー」(書肆侃侃房)がある。EX大衆、Rooftopでもコラム連載中。

 

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