釜ヶ崎のおっちゃんとわたしが終わらせないでいる日常|成宮アイコ

奇しくもその年に、あおさんのお父さんは「陸軍自動車学校」に入っていたらしいのです。記事には大勢の兵士がずらっと並んだ写真がひきで写されていました。きっとそのどこかにお父さんはいるのです。

あおさんは老眼鏡をかけて、ひとりひとり指で追って確認をしていきます。古い資料はとても不鮮明で、写真は荒いドットでジャギジャギです。「とてもわからんなぁ」と笑うあおさん。結局読み取ることはできませんでした。資料はコピーをさせてもらい、あおさんはそれを大切そうにして本にはさみました。

買ってもらったサーティーワンアイスクリーム

とにかく現地へ行ってみよう、と、急いでタクシーでひばりが丘へ向かいます。

駅の前で降ろしてもらい、わたしとあおさんは歩き始めました。大きなマンション、きれいに整備された道。ミンミンジリジリと大きな音で鳴くセミは、あまりにもうるさくて「うるさいよ!」と笑い出しそうです。

知らない名前の駅ビルの前では、インストアライブの最中でした。ギターとボーカルと声援をおくる女の子たち。歌い終わると同時に、「来月、ワンマンライブを開催します!」と告知をはじめました。女の子たちは歓声をあげます。

いまを生きているわたしたちは、当たり前のように未来の約束がされます。ファンの女の子たちも、バンドのふたりも、通り過ぎただけのわたしも、未来は当たり前にあると思っています。

「あっちゃん、アイス食べるか?」

あおさんはにこにことしながら、サーティーワンの前でわたしに声をかけました。

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