ある一家と霊 「母が見たという女の霊はこれに違いない!」|川奈まり子の奇譚蒐集二三

鳥屋野潟では、冬の白鳥を3人で楽しみ、春の桜は、新居に移ってからあらためて見物にいらしたそうだ。

「自分たちと入れ違いで、若い社員が家族と一緒に入居しました」
「その方も、髪の長い女に遭ったんですか?」
「いいえ。それが何も見なかったそうなので……うちが連れてきちゃったのかなぁ、と」
「え? 連れてきた? 新しい家にですか?」
「ええ。妻は今でも姿を見たことがないそうですし、母と自分も、引っ越してきてからは物音を聞いたり、気配を感じたりするだけなんですけど……」

元々、住んでいた古い家を取り壊した跡に、新しく建てた二世帯住宅。更地にしたときついでに地盤改良工事を施したから、土台に怪しい骨が埋まっているといった因縁もあろうはずがない。現代的な新築の住居である。

「……でも、誰もいないはずの部屋から足音や椅子を引く音、扉を開け閉めする音や何かが聞こえてくるんですよ!」

礼奈さんにも隠しておけなくなり、新居に住むようになって間もなく、社宅にいたときに見た幽霊の話から洗いざらい話した。幸い、礼奈さんは、さほど怯えるようすはなかったが。

「ただし、電化製品がすぐに故障するので、それについては妻も怖がってはいませんが怒ってます。2009年の3月に引っ越してきて、そのとき家電をすべて新しく買い揃えたのに、来て1ヶ月足らずで、冷蔵庫、テレビ、洗濯機、掃除機……どれも全部壊れてしまいました。使い方が荒っぽいわけではなく、家の周囲に強力な電波を発したり磁場を生んだりするような施設があるわけでもなく、建て替える前の家ではこんなことはなかったんですよ? 家電を購入した店の人が、これは異常だから電圧を調べるべきだと言うので、電力会社に調査してもらいましたが、電圧や何かは正常で、原因はわかりません。約10年経った現在も、同じ状況が続いています」

今ではお子さんにも恵まれ、妻も母も健在で、鳥屋野潟の亡者舟やミノ虫の怪談とは異なり、誰も死に誘き寄せられそうな兆しはないが、ただ、社宅で幽霊に取り憑かれたまま祓えていないようではある。

しかし茂男さんとご家族は、もはやこのオバケにすっかり慣れてしまったと思われる。

茂男さんは最後に、「幽霊がいるせいで、我が家の家電は常に最新型です」と笑っていた。(川奈まり子の奇譚蒐集・連載【二三】)

【参照資料】
新潟市潟環境研究所公式サイト「新潟市潟のデジタル博物館」