この記事は【前編】からの続きです
『地面師』の被害は防げるのか
書類を偽造したり、裁判手続を悪用して他人の土地をお金に換える『地面師』。最近急増しているその被害から身を守る方法はあるのでしょうか?
それを考えるには、地面師による被害には二つあり、一つは所有権を取得できない他人の土地で多額のお金を騙し取られるリスク、もう一つは自分の土地が知らない間に売り飛ばされてしまうリスクということを念頭に置く必要があります。
昔から知能犯の代表格といわれてきた地面師の手口は非常に巧妙で、書類の偽造技術や偽の売却話を信じ込ませる舞台装置作りは年々進歩していますから、被害を100%防止できる方法は今のところないのが実情です。そこで、地面師の手口と特徴を知り、被害に遭うリスクを極小化するほかないといえます。
『地面師』の持ち込む詐欺話のパターンを覚えよ
最初に土地購入代金を騙し取られる被害を防ぐ法から。地面師が持ち込む不動産売却話には、自然といくつかのパターンが出てきます。
まず注意すべきは、最近になって所有者が代わった物件。直接の売主、つまり現在の所有者は不動産会社であってもその一つか二つ前は個人が長期間保有していたような土地です。
たとえ、その所有権移転が調停や和解といった裁判手続によるものであっても、偽者を身代わり出廷させた訴訟詐欺的なものだったかもしれません。よって、本当に売却の事実はあったのかを実際に会って聞いてみる『前主確認』や『前々主確認』は非常に重要です。
次に、現金決済にこだわり、代金の支払いを急かす売主も一応は警戒するべきでしょう。地面師は本当の土地所有者に確認されて犯行が発覚するのを大変恐れるので、確認する時間的余裕を与えないものです。
そこで、破格の条件を出して直ちに現金払いさせるよう仕向けるのです。また、売却理由、あるいは土地担保融資の目的が「選挙資金」「政界工作費」「離婚に伴う慰謝料」「裏口入学運動費」「息子のギャンブルの尻ぬぐい」といった表に出しづらい理由であることも多いのです。
そして、土地所有者本人からではなく、所有者の代理人と称する人から売却話が持ち込まれるケースもあります。
遠方・高齢・病気などを理由に親族や宅建業者が代理人となる取引はまれではありませんが、菓子折でも持ってアポ無し訪問し、必ず本人意思確認をすることです。これを怠り大きなトラブルになった司法書士は少なくありません。
可能なら決済前に所有者の本人確認書類も含めて書類全てのコピーをもらい、所有者近隣の人に「この人で間違いないですか?」と聴き取り調査が出来れば完璧ですが、現実にはここまですることは難しいでしょう。
大切な土地を守るためには、定期確認が有効
次に地面師に土地を乗っ取られるのを防ぐ法。地面師は土地所有者が現にそこに居住していたり、近所に住んでいる土地は絶対に狙いません。騙された買主が「早く土地を明け渡してくれ」と言ってきて、すぐに犯行がバレるためです。
そこで、土地所有者が遠方居住の高齢者である土地、相続が発生したのに相続登記をせず故人名義になっている一等地が狙われるのです。
地面師の被害に遭っても早く気付けば、すなわちその土地が次々に転売され、建物が建てられたりする前なら裁判も比較的簡単で済み、傷は浅くて済みます。よって、こういう土地をお持ちの方は、年に1回は登記事項証明書を取ってみることです。
現在、法務局はオンライン化され、地元の法務局でも1筆700円で簡単に取ることが出来ます。
登記事項証明書により所有名義人が変わっていないか、身に覚えがない抵当権の設定などがないかを確認するのです。いわば、"土地の定期検診"を年1回行うわけです。
これにより固定資産税通知書が届かなくなって「変だな...」と思う前に発見できることも多いです。
不動産業界に伝わる格言に「不動産に掘り出し物なし」というのがあります。あまりに条件が良すぎる話に飛びついて慎重な事前確認を省略したりしない。『地面師』から身を守るコツは、実はそんな当たり前のところにあるものなのです。(取材・文◎駒場文一)
「地面師」とは何か――? 積水ハウスを引っかけ55億円をもぎ取った謎の詐欺集団の正体
【関連記事】
●【徹底解説】東京オリンピック開催で再び暗躍か? アパホテルが12億も騙し取られた詐欺『地面師』の実態【前編】
●「地面師」とは何か――? 積水ハウスを引っかけ55億円をもぎ取った謎の詐欺集団の正体
●仮想通貨取引所「Zaif」 顧客を舐めきった運営をして、あっさり他社へ譲渡 テックビューロ許すまじ