なぜ北関東で殺人事件が起こるのか――その土地的因縁は「江戸時代の農村」へと遡る|八木澤高明

殺人鬼・八木茂が経営していたスナック跡(筆者撮影)

埼玉県本庄市、関東平野の真っ只中、旧中山道が通る小高い丘の上にある静かな街である。この街では2000年に本庄保険金殺人事件が起きた。

犯人の名前は八木茂。三人の男たちと、愛人を偽装結婚させ、多額の保険金を掛けたうえで次々と殺害した。逮捕前、八木は連日、経営していたスナックでマスコミ相手に有料記者会見を開いたことでも知られていて、顔を覚えている人も多いだろう。
本庄市の住宅街に八木が経営していたスナックの建物が今も残る。スナック跡の建物の隣には、保険金を掛けていた男たちを住まわせていたという平屋の建物も残っていた。

その周辺を歩いていたら、幼馴染みだという男性とたまたま知り合った。

「八木は、トラックの運転手で金を作って、80年代の後半ぐらいにここに来て、スナックを開いたんだよ。当時は、カラオケができるスナックなんてなかったから、夜7時の開店の前には人が並んでいたよ」

――子どもの頃はどんな少年だったんですか?

「ひょろっとしていじめられっ子だったけど、大人になってから、彫り物を入れたりして、威勢がよくなったね。スナックの酔っぱらいが、よく(男性の)家の壁に小便を引っかけたりしたけど、盆暮れにはちゃんと菓子などを持ってきたりして、義理は通す男だったよ。まさか保険金をかけて、人を殺しているようには見えなかったな。スナックも儲かっていたし、金には困っているようには見えなかったけど、金の亡者になっちゃったんだな」

八木は愛人の女たちを巻き込み、次々と保険金をかけた男たちを奈落の底へと落としていった。すさまじい金への執着である。