私服警官に居酒屋の「客引き」をして現行犯逮捕 彼がどんな罪になるのか裁判を最後まで見てきました

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 迷惑防止条例違反の罪で逮捕、勾留され法廷に立つことになった清水貴司(仮名)は平成9年生まれ、裁判当時は二十歳の青年でした。顔にはまだ幼さが残っています。
「こんな大事になると思わなかった」
 そんな言葉を口にしていた彼は、社会や法律を甘く考えすぎていたのかもしれません。彼のみならず、二十歳そこそこで裁判を受けることになった被告人は同じようなことを言う人がとても多いのです。

 彼が犯した犯罪は居酒屋の『客引き』でした。
 夕方の6時すぎ、池袋駅近くの路上で
「居酒屋のお探しですか?」
「九州料理の店なんですよ。」
「よかったら一杯どうですか?」
などと、不特定多数の通行人につきまとい声をかけていたのです。私服で繁華街の警備に当たっていた警察官の二人組にも同じように声をかけたことで彼は現行犯逮捕されました。
時間は約50秒、距離は約30メートルにわたって、彼は相手が警察官だと気づかないまま、客引き行為を続けていました。

 彼は客引き行為が違法であることは十分認識していました。犯行現場のすぐそばには『客引きは違法です』と書かれた横断幕が掲げられていました。彼が捕まった場所は特に取締強化地域として、行政や地元商店街が客引きの摘発に力を入れて取り組んでいる場所でした。
「路上喫煙と同じくらいだと思ってました。軽く考えてました。」
という発言をしていましたが、すぐさま検察官に、
「路上喫煙もダメだよね?」
 と怒られていました。

客引きを利用した店自体はお咎め無し?

 客引きの仕事を始めたのは逮捕される半年ほど前のことでした。『将来、居酒屋の経営をしたい』という夢を持っていた彼は友人に、
「客引きをやれば人脈が増えるよ」
 と誘われたからです。結局、客引きで人脈はまったく出来なかったそうですが。友人の誘いを受けて彼は客引きを派遣する会社に面接に行き、採用されました。
 客引きとお店の間には直接の雇用関係はありません。もし、お店の従業員が客引き行為で摘発されるとそのお店は3ヶ月~6ヶ月の営業停止になります。しかし派遣されてきた客引きが捕まっても、お店には何もペナルティーはありません。お店とは関係ない人間だからです。

 彼が得ていた報酬は、平日であれば連れてきた客の会計の18パーセント、休日であれば15パーセントでした。月に彼がどれだけ稼いでいたのかは裁判では明かされませんでした。ぐるなびによると、このお店での平均予算は1人3000円だそうです。
 当時、彼は家を飛び出して友人宅や漫画喫茶を転々としていました。客引きの他には仕事をしていなかったので、かなり厳しい生活をしていたのではないかと思われます。

 彼はもう客引きの仕事はしない、と約束していました。居酒屋経営の夢も諦め今後はゴミ収集の仕事をしていく、と話していました。
 両親、特に父親は今回の事件を知って激怒し、
「自分でやったことで捕まったんだから、一切支援や手伝いはしない。自分で償え。もう帰ってくるな!」
 と彼を突き放しました。この裁判での求刑は罰金30万円。この支払いももちろん両親は支援してくれません。実家に帰れない彼は以前知り合ったバイト先の先輩のところで今後は世話になるそうです。

 この事件で一番悪いのはもちろん被告人自身です。あまりにも考えが浅すぎました。罰せられるのは当然です。

 彼が罰せられる一方、違法行為をさせていたお店や派遣元には何も制裁が加えられることはありません。手っ取り早く客を連れてくる客引きを便利に使いながら、摘発されれば自分たちは関係ないと装います。こんなお店は社会から退場するべきです。違法行為をすることはもちろんですが、人に違法行為をさせることも許されてはならないと思います。

 彼が勾留中、面会に来たのは彼を今後世話することになっている先輩だけでした。両親も派遣会社の人間も、そしてもちろんお店の人間も誰も面会には来ず、傍聴席にもその姿は見当たりませんでした。(取材・文◎鈴木孔明)