番台に座る盗撮犯に料金を支払って事件現場へ入浴 それでも支持される銭湯とは|Mr.tsubaking

東京西部の住宅街、周辺に高い建物がないために青空によく目立つ煙突がそびえています。

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 そこにある銭湯が、とても数奇な運命をたどっているのです。

坂上忍が司会をつとめるTBSテレビの人気特番「犯人に告ぐ!盗撮盗聴 怒りの追跡バスターズ」という番組をご存知でしょうか。
2017年の放送回、坂上忍が盗聴捜査の専門家と共に、都内を捜査していると盗聴機らしき電波をキャッチしました。電波の出所は銭湯に隣接するアパートの一室で、女性が住んでいました。事情を説明すると、部屋に出入りできるのは大家しかいないということで、大家を呼び出し坂上忍が追及すると、盗聴していたことを白状。

番組としてはここまでだったのですが、事件には続きがあります。
大家は隣の銭湯の店主でもあり、なんと銭湯で女風呂を約50回にわたって盗撮しており、2017年11月の裁判で懲役1年2ヶ月執行猶予3年の判決を受けております。

当然、銭湯も閉鎖されました。

閉鎖を知らせる張り紙には「負けないでまた銭湯をはじめてください」「復活まってます」など、地元の常連客から応援の書き込みがされていました。やはり、地元の人にとって銭湯というのは心身を癒したり、近所の人との憩いの場としてなくてはならない文化なのです。

そうした声を受けてか、なんと現在この銭湯は営業を再開しているのです。

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 生活道路から路地を入った先が銭湯。事が明るみになった今は「事件現場」ともいえます。再開当初は女湯を開けていなかったのでしょうか、入り口の看板には「女」の部分がガムテープで消されていた形跡があります。

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 中へ入ると、番台(フロント)に立っているのがまさに犯人の店主。盗撮犯がまたこの場所へ帰ってきているのです。店主は裁判で、女湯が見える銭湯裏手の小窓と、この番台から盗撮をしていたと語っています。まさにここが現場なのです。
「現場」で「犯人」に料金を支払い、男湯の脱衣所へ入りました。事件のせいなのか平日の午後3時すぎという時間のせいか、客は私ひとり。そこで、盗撮をしていた人に撮影の許可をもらうのも変な気分でしたが、撮影の可否をお伺いし、お客さんが写らない事を条件に許可をいただきました。

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 脱衣所には防犯カメラが設置されていました。女湯にも同じものがあるのでしょうか。だとしたら、誰が何の目的でどんな気持ちでその録画をチェックするのでしょうか。

浴場は、白湯とバイブラ湯に薬湯の浴槽があり、洗い場の数や規模も普通の銭湯といった感じです。体を洗い、東京の銭湯らしい熱めの湯に浸かっていると、お客が何人か入りはじめます。そうしているうちに、壁の向こう側の女湯からも水音と話し声が聞こえてきました。今、壁の向こうにいる女性たちは、事の顛末を知っているのでしょうか。

しっかり温まって湯上り、脱衣所でこんな張り紙を見つけました。

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 共通入浴券が使えないのは、東京都の浴場組合からは脱退している(させられた?)ためです。つまり現在はインディーズ銭湯として営業しているのです。

確かに、盗撮犯が番台にいるのは気持ちのいいことではありませんが、店主は2020年の11月まで執行猶予の身。つまり、今がもっとも罪を犯せない時期なので、この銭湯は盗撮の危険性の低い、今もっとも安全な銭湯とも言えるのではないでしょうか。

少なくとも、あの時お見かけした男性のお客さんと、女湯から聞こえてくる声は、とても明るく、ここが地元の人にとって、大切な癒しの場であることは間違い無いのだと感じました。(Mr.tsubaking連載 『どうした!?ウォーカー』 第26回)