【新宿署痴漢冤罪事件】痴漢に間違われ死に追いやられた青年の悲劇

2014年08月14日 悲劇 新宿署 痴漢冤罪 自殺

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無罪を訴える故原田信助さんの母親・尚美さん。

 

 2009年12月、大学職員の原田信助さん(当時25歳)がJR新宿駅構内で突然、暴行を受けた。信助さんは110番通報し、警察がやってきた。信助さんも新宿署に任意同行された。痴漢の容疑がかかっていたのだ。しかし、被害女性から「服装が別」との証言があり、釈放された。しかし、その旨を信助さんには伝えず、もう一度、暴行の件で新宿署に来るように約束をさせられる。新宿署を出た後、東西線早稲田駅のホームから転落し、死亡した。この事件で、遺族で母親の尚美さんは東京都を訴えている。裁判が始まって3年が経つが、なかなか証人尋問にならない。

 提訴したのは2011年4月。6月の第一回口頭弁論から考えれば3年が過ぎた。ここ3回は公開の法廷でのやりとりはなく、非公開の進行協議や弁論準備が続く。これまでの約3年間、公開の法廷でのやりとりが続き、傍聴人も多かった。メディアで報道される数が少なかったものの、関心を集めた事件だ。ニコニコニュースで番組を作ったり、ブログやTwitter、フェイスブックでの情報発信によるところが大きい。

 しかし、公開の法廷とならなければ、傍聴もできない。もちろん、公開であっても民事裁判はほぼ書類のやり取りのために、傍聴だけでは理解できない。そのため、閉廷後は、隣接する弁護士会館で弁護団が主催する説明会が開かれ、どんな進行度合いなのかを説明する。法廷での傍聴と弁護団からの説明がセットになっているからこそ、傍聴人も理解しやすく、多くの人が関心を持っていたのだ。

 もちろん、非公開であっても、まったく進行していないわけではない。5月26日の進行協議では、都(警視庁)側は信助さんが新宿駅構内からかけた110番通報の音声データを出して来た。110番通報の保存義務期間は1年。そのため、音声データはもうない、と思われて来た。しかし、都側は保存していたというのだ。

 ただ、この音声データはこれまでの証拠等から考えると、不自然な点がある。それは、信助さんがこの時点で駅員の名前を言っていることだ。この時点では、残されたボイスレコーダーから考えると、信助さんが駅員の名札にある名前を読めていないと思われている。

 ボイスレコーダーは、現場に警察官が到着し、新宿駅西口交番、新宿署でのやりとり、また釈放されてから電車にひかれるところまでも記録されている。しかし、提出された音声データでは、駅員の名前を読めている。このときのボイスレコーダーの記録はないので、都側提出の音声データが本物なのかどうかは不明だ。偶然、この時だけ名前を読めた可能性もゼロではないが、音声データがつくられたものという可能性も否定できない。

 母親の尚美さんにとってはボイスレコーダーの存在が大きい。このボイスレコーダーがあったからこそ、多くの人に説得力を持って伝えることができている。そして、国家賠償をすすめてくれた故・黒木昭雄さん(元警察官で、退職後は「捜査するジャーナリスト」)と会うこともできた。

 できるならば、110番通報の音声データが本物かどうかを鑑定すべきだろうが、鑑定する時間をつくると、さらに証人尋問が遠のいてしまう。また、裁判全体の時間も長引く。音声データに改ざんの跡がないとの鑑定だったとしても資金は必要だ。そのため、資金と精神力に余裕があればよいが、得策ではない。

 これまでも不思議な点はあった。そもそも、痴漢があったとされた当時の新宿駅構内の監視カメラのデータがある。もとデータはデジタルデータだが、JR側が母親の尚美さんに提出した画像はVHSのビデオテープだった。トラブルが起きていると思われる集団が記録はされている。しかし、110番通報をした時間とは違った時刻のものだった。

 警察やJRが出してくる情報に母親の尚美さんが揺さぶられている。ただ、今の希望は逆に時間がかかっていることだ。「国賠訴訟の場合、短時間で弁論が終わる場合は、一般庶民が負けているケースばかりだ。勝つかもしれない事案は長期化する」と言われているからだ。ただ、長期化すれば訴訟費用は心配だ。そのため、支援する会( http://haradakokubai.jimdo.com/ )ではカンパを集めている。

Written Photo by 渋井哲也

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