【インタビュー】天朝、尖閣、メディア洗脳...中国人が弾圧覚悟で「反中漫画」を執筆した意図は?

2013年08月03日 中国 反日 尖閣 漫画

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 中国・杭州に住み、日本のマンガ雑誌で新人賞を受賞したという中国人漫画家・孫向文氏(30歳)による『中国のヤバい正体』という作品が先月末に発売された。

 主人公と友人たちの会話をほのぼのとしたタッチで描くが、内容は徹底的な中国政府批判だ。日本のメディアではなかなか分からない今どきの若者事情が興味深い。 

 若者は密かに「天朝」という言葉を多用する。「天安門朝廷」の略で、もちろん中国政府を揶揄する意味だ。しかし、メールやメッセンジャーサービスの「QQ」に「天朝」と書き込むのはヤバい。当局が監視しているからだ。

 本編では最近、日本で問題化する「脱法ハウス」そっくりの格安物件も描かれている。大学を卒業したのに就職できない「蟻族」やニートが多く住むという。そこで出会った名門大学出身のニート男性「教祖」は、〈あなたたちが蟻のようにせっせと働いたお金は全て不動産に吸い上げられている!!〉などと中国社会の現状を批判的に講釈する。不動産バブルが終われば、〈当然...中国の経済成長はストップ。共産党の体制も維持できず国は崩壊するでしょう。ドンガ!〉。中国の若者たちが語る言葉は、日本の書店に平積みされる「反中本」と同じような内容であることに驚く。

 他にも食物汚染、ネット規制、反日デモ、公害やインフレなど中国の社会問題や独裁政治を横断的に批判する。こんな本を出版して、著者は逮捕されないのか。7月に来日した孫氏に直撃した。

――日本人による反中本は数多く出版されていますが、中国在住の中国人によるものは珍しい。身の危険を感じないのか。

「描くと決めた時、(もしバレたら)家族や友達を苦しめると思った。でも、身元を特定されないようかなり工夫している。日本の編集者との連絡は「VPN」という仮想専用線を使い、日本国内に開設したメールアカウントを使う。パソコンは当局にウイルスを仕掛けられやすいウィンドウズでなくマック。文面は日本語で書く。

 政府批判はしたが、あくまで普通の中国人が知る話を書いただけだ。政府機密を漏らしたのではないから、もしバレても重罪にはならないと思う」

――中国政府に反対するようになったきっかけは。

「小学校中学年の頃、国外に親戚がいるクラスメートから天安門事件の際、政府が銃で大学生を大勢殺したという話を聞いた。なぜ民主や自由を要求するだけで殺すのか。僕だけでなく、クラスメートは皆、『政府がおかしい』と言い合った。

 中学生になって書店で日本のマンガ『電影少女(ビデオガール)』を手に取って、感動した。『こんなにエッチなマンガが許されるなんて日本は自由だ』と思った。高校生になると、将来は日本で通用するマンガ家になりたいと思うようになり、日本語の勉強を始めた。

 ネットが普及してからは、日本や香港、台湾のネットを見て、中国政府は間違っているという確信を強めた」

――エッチだから自由という発想は面白い。

「性欲だけでなく、普通の人はいろいろな欲望がある。カネが欲しい、暴力的なものを見たい、きれいな女性が欲しい。当たり前の欲望だ。でも、中国では欲望は良くない、教育に悪いという考え。中国の表現者は、常に自分の想像力を殺すことを強いられている。だからせっかく創りあげたものは面白くない」

――尖閣問題はどう思うか。

「中国メディアが『日本が中国領土を国有化しようとしている』と報じるまではあまり知らなかった。最初は日本がおかしいと思っていたが、ネットで1953年の『人民日報』の記事を見て驚愕した。「尖閣諸島は琉球群島に含まれる」という意味の記載があったからだ。共産党機関紙が昔は日本領と認めていたのに、今、中国政府は『我が国の領土』と言っている。それ以外にも、尖閣が日本の領土であることを示す写真が150点以上あることもネットで知った。

 今回、尖閣問題が事件にならなければ、中国の領土だと思っていただろう。しかし、僕だけでなく、多くの中国人がネットを見て、中国政府の主張には無理があることが広まっている。

 今まで中国人はメディアに洗脳されてきた。しかし、僕は洗脳に失敗(笑)。正しいニュースを日本や香港、台湾のメディアで見たから。僕のような中国人がますます増えるだろう」

 天安門事件の4カ月後、東西ドイツを分断した壁が突如崩壊した。東独市民は西独から流出する「越境電波」を密かに視聴し、東独メディアは政府の都合が悪いことを報じないことや、平然とウソを伝えることを知った。

 同時に西独ははるかに豊かで自由なことを知った。そのような知識が年月を経て、東独の隅々にまでじわじわと浸透した。一滴一滴、しずくがコップにたまり、ある日、コップを満たし、縁からあふれ出るように、壁が崩れた。


 中国が今、同じ過程にないとは誰にも断言できまい。

Written by 谷道健太

Photo by kevinpoh



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