【CIA内部文書】暴露された「スパイが入国審査を突破するテクニック」

2015年01月14日 CIA ウィキリークス 暴露

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 米中央情報局(CIA)の「スパイが入国審査を突破するためのテクニック」などを記した内部文書が暴露された。ウィキリークスが2014年12月21日、公開したCIA作成の文書2本――「2次審査を生き延びる――国際空港における2次審査手順に関する属性露見対策を考える」(2011年9月作成)と「シェンゲン体制のあらまし」(2012年1月作成)だ。

 米国政府の秘密指定区分上、2番目に秘匿性が高い「シークレット」に該当し、外国人に開示が許されないことを意味する「NOFORN」と印字してある。

「2次審査を生き延びる」の内容は副題にあるとおり、「属性露見対策」だ。CIA関係者は氏名や年齢、職業、国籍といった属性を偽って外国を訪れることがある。空港で入国審査を受ける際、属性偽装が露見しないよう注意が必要なのだ。

 一方、「シェンゲン体制のあらまし」はドイツやフランスなど欧州主要国が運用する共通国境政策「シェンゲン協定」の最新情報を解説したもの。欧州を訪問するCIA関係者にニセ属性がバレないよう注意喚起するものだ。

「カバー保全の絶対的重要性」。そんなタイトルの項目には、生々しい記述がある。カバーとは「ニセの属性」を意味する情報機関の用語だ。

 CIA職員が乗り継ぎのため、ある欧州の空港に到着したところ、2次審査を課せられた。米国政府発行の外交パスポートを手にする割には「カジュアルすぎる服装」が不釣り合いと判断されたようだ。2次審査で手荷物検査を受けると、カバンから爆発物の反応がでてしまった。CIA職員は「ワシントンで対テロ研修を受けたばかり」とするカバーストーリー(ニセ属性を支える説明)を口にしたが、言葉がうまく通じなかったこともあり、入管当局から「この旅行者は何かを隠している、テロリストから実地訓練を受けたようだ」と疑われたという。「それでもCIA職員はカバーストーリーを貫き通し、最終的には別便の予約が認められ、旅を続けることができた」(「2次審査を生き延びる」)

「2次審査」とは、入国を試みる旅行者を別室に案内し、より詳細な審査をすること。「2次審査を生き延びる」によれば、2次審査を課せられる主な理由は、(1)入国拒否歴があるなど要注意人物として登録(2)麻薬や政治的書物など禁制品を所持(3)パスポートの記載内容がビザと食い違うなどの不整合――の3点という。

日本の税関職員は若い西洋人に対し麻薬密輸を疑う...

 米国人が2次審査を課されやすい例を挙げた中で、「日本の税関職員は単独旅行者、とりわけ若い西洋人に対し、麻薬密輸を疑って警戒している」とある。イラン・テヘラン空港やロシア・モスクワ空港では、旅行者のノートパソコンを起動して内容を調べられることがある。その他の国でも、スマートフォン、iPod、MP3プレーヤーは要注意だ。「利用登録を要することから、本名が露見するおそれがある」

 CIA職員は世界中に駐在し、出張を繰り返しているが、CIA職員の身分はめったに明かさない。現に「CIA東京支局長」は東京都心の米国大使館に勤務するとされるが、その氏名が在任中に明らかにされたことはない。CIA職員は大使館員や米軍関係者を装うことが多く、民間人を名乗ることもある。

 CIAの活動をリアルに描く米国のテレビドラマ「ホームランド」にも、ニセ属性対策のシーンがでてくる。米バージニア州ラングレーのCIA本部に勤務する主人公の女性職員が、テロ組織のスパイと接触するためヨルダンに出張する。いったん第三国のキプロスに飛び、カナダの偽造パスポートを手渡されて、「カバーストーリー」を暗記しているかテストを受ける場面がある。偽名だけでなく、ニセの出身地など細かくニセ属性を覚える必要があるのだ。

〝2次審査突破術〟は、ニセ属性を使わない一般の旅行者にも役立つ知識と言えるかもしれない。外国を入国する際、ウソをつく人は少なくないからだ。

 例えば、海外出張をしたことがある人で、入国申告書の入国目的欄に「観光」と記した経験を持つ人は少なくないはずだ。正直に「ビジネス」と書くと、「不慣れな英語で質問責めに遭うと困る」とウソをつく。または、業務ビザが必要な国なのにビザを取得していない場合、そんなウソをつく人は多いのではないか。

 安宿や知人宅に泊まるつもりなのに、入国申告書の現地滞在先欄に泊まるつもりがない高級ホテルの名を書く人もいる。現地滞在先欄を空白にしたり、泊めてくれる知人の住所を書いたりすると、入国審査官が怪しむことがあるからだ。

 実はここで挙げたウソつき旅行者は、前述のCIAマニュアルにある〝2次審査を課される理由ベスト3〟のうち「(3)パスポート記載内容の不整合」に該当する。入国書類には「観光」とあるのにスーツを着ているなど不釣り合いな点があって怪しいというわけだ。

 どうすればいいか。CIAマニュアルは、「2次審査を回避するため、または2次審査を乗り切るため、死活的に重要なことは、カバーの首尾一貫性、周到な準備、もっともらしさである」と説く。CIAがハンガリー政府の情報機関員から得た情報として、同国入管当局が2次審査を課す〝怪しい旅行者〟の類型を以下の通り解説している。

・旅行日数と手荷物の数が不釣り合い

・手荷物の中に目覚まし時計やノートなどの新品が複数ある

・旅慣れたビジネスマンのはずなのに荷造りが乱雑

・未開封の地図やガイドブックなどの書物を所持。観光客のはずなのに旅行先と無関係の地図を所持

・カメラのグレードと旅行者の属性が不釣り合い。観光客の予定日数とカメラのメモリー容量が不釣り合い

CIAのテクニックは一般人旅行者にも使える

 CIAのアドバイスは一般の旅行者に当てはまる。「観光目的です」と申告したのに、手荷物からプレゼン資料や製品パンフレットの束が見つかればウソがバレると考えた方がいい。

 実は、完璧な対策をしても2次審査を課せられることがある。CIA文書によれば、「米国向け旅行者のおよそ12%は無作為に選ばれて2次審査に回される」と米国土安全保障省は推計しているという。

 ここまではウィキリークスが暴露したCIA文書の内容だ。ここからは世界50数カ国に渡航経験がある筆者の個人的体験に基づき、〝入国審査の突破術〟を伝授しよう。(続く)

Written by 谷道健太

Photo by Nelson Lourenço

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